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戦艦空母艦隊
その他リレー小説 - 戦争

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戦艦空母艦隊 97

その頃、東京にある陸軍参謀本部を訪れたロンメルとフラーと話す陸軍参謀本部付武官が居た。机にはドイツ語に訳された紫の書が置いてある。これは日本語版を出す為に買い付けた一冊である。
「よもや日本軍にも読まれているとは……」
「我が国の戦車は精々敵歩兵を威嚇すれば十分とされてますが、米軍との衝突も想定して大型化を試みましたが……戦艦の様に中々上手くは行かないのです」
武官は面目ない表情になるがそれを補う為に日本陸軍は早くからドイツから齎されたパンツァーファストを国産化しており巧みなゲリラ戦術でアメリカのM4を各坐させている。
「この先我々陸軍はナチスドイツ第三帝国の戦車隊を相手にしなければなりません、数年のうちに」
ロンメルは頷くとフラーは言う。
「私の様な奇人変人で宜しいのなら力を貸しましょう」
日本陸軍の戦車開発や戦術は遅々として進まなかったのも海軍に予算を盗られた事が要因であったのだが戦車隊のエキスパート軍団であるロンメルらの協力取り付けによりその不満を払しょくに成功したのである。
海軍と陸軍の仲違いを防ぐのに腐心したのは葵川である……港湾施設を防ぐには陸軍の協力が必要不可欠であるが海洋国家であるが故に陸軍との対立は明治時代からあると言っても過言ではない、それが関東軍を産み出した一因と言える。今回戦車戦術の租であるフラーに実戦によりノウハウが蓄積されたロンメルらの協力申し出は陸軍にとってはまさに好機だ。


フラーはまず日本の地形や地質に関して専門家から聞きつつ、時にはその地へと赴いた。
「日本は山岳地帯を抱えている」
戦車の運用にとっては山岳地帯は正に不得意な地域だ。
特にドイツ戦車はその重装甲と車体の大型化で苦労しておりロシア戦線では作戦にも支障が出た事は彼も把握している。日本の戦車は国土防衛コンセプトを優先するならM4シャーマンの車体にドイツ戦車の重装甲がマッチングすると結論を出した。そして戦車兵育成の効率化も至上命題になっていたがそれの解決方法は目途が立っている。
「フラー少将、こんな感じですかね?」
その男は画を見せると彼は親指を立てて言う。
「OK、流石YAMATOマニュアルを手掛けた事がある」
海軍から医学兵として参加していた手塚修准尉は持ち込まれたティーガーマニュアルを見て紫の書を説明漫画化する事を提案したのである。確かに日本の戦車説明書は文字ばっかりでありこれが紫の書となると素人が経典を読むのと同じだ。
「円谷少尉の方も撮影は進んでます」
「記録映画を見ましたがアレは本当に模型なのですね」
フラーが言う記録映画とは“日本帝国海軍航空隊”の事であり戦意高揚よりも国民に戦場を知って貰う為に製作しており今でも上演されている。中でも海軍艦載機がハワイ諸島に侵入し山肌を沿って編成飛行するシーンは国民の誰もが実際に撮影されたと勘違いしたほどだ。だが事情通なら分かるのだが当時の映画カメラは大変大型でとても艦載機に載せて技師が撮影出来る訳もない、映画カメラとその技師を載せられるとしたら海軍の大型飛行艇しかないのである。そして映像が“鮮明過ぎる”……フラーはこの映画を数回見て編成飛行シーンが特撮である事に気が付いた。この仕掛けを初めとして数々の特殊効果を発案した男こそ海軍技師でもある円谷 英二郎少尉(最終階級は準佐)だ。元は東京にある民間の飛行士学校に居たが教官が墜落事故を起して閉鎖、その後は同郷の好で成功を収めていた男が経営する玩具製造会社に入社しヒット作を出した。
彼は手先が器用であり玩具の世界に置いてもその名を残す事になる。特別報酬を貰い同僚らと上野に繰り出した時、酒癖が悪い同僚が隣に居た客らと喧嘩になり円谷は制止するもその場に居合わせた非番の若手軍士官らが絡んでしまう、彼らもまた酒に完全に呑まれていたがその場に葵川が居なければ彼は海軍士官にならずに東京の下町で玩具開発をしていただろう。葵川は干されてはいたが海軍将校である事は間違いなく士官らも酒の酔いが覚めた程ある。その後は仲直りの酒盛りになったのだが喧嘩相手になったグループの一人である坂田 寅之助は円谷のこれまでの事を聞くなり撮影用模型制作の話を持ちかけた。彼は当時としては珍しく模型を用いた撮影を専門にする映写技師であり模型に関してはこれまで小道具班では限度を感じていた。そこに葵川が海軍航空隊の戦闘再現映像の制作を打診し話がトントン拍子に進み円谷は民間招聘技師として海軍に籍を置く事になる。そして異例の映画監督として世に知らしめたのが“日本帝国海軍航空隊”と言う映画だ。

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