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戦艦空母艦隊
その他リレー小説 - 戦争

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戦艦空母艦隊 34

日本海軍は類を見ない水上機/飛行艇王国と言うのも頷けるがシーパワー国家である日本にとってはこれが当たり前で南洋に展開する水上機/飛行艇部隊には千歳型水上機母艦をベースにした若宮型水上機母艦が配備されている。最大の特徴は昨年10月からは日本海軍初の回転翼機となる“多目的用途観測機 コ号001 蝙蝠”が配備。機長と副長の他三名が搭乗出来る。しかもターボシャフトエンジンにより見た目以上に吊り下げ運搬機能を発揮、人命救助から島への物資運搬と活躍している。宮藤少佐も操縦したが水上機や飛行艇よりも実用的と感じた……将来性がある事は確かだ、亜米利加も同じ形式の回転翼機を配備し始めている情報もある。
「少佐……次官からなんと」
「次の攻撃目標は独逸の原爆工場だ」
車内にて部下の軍曹は驚いて自分の口を塞いだ。
「幻龍編隊の様に奇襲出来ない、完全に誘導弾の成否が分けるぞ」
「わ、わかりました……」
「海軍技研に向かってくれ」
「はい」
軍曹は小型軍用車輛を運転する。


海軍技研では誘導弾の研究がされていた。パナマ運河の際には通常高度からの投下だったので成功したが今回ばかりは独逸空軍との戦闘も避けられない……護衛機は無い上に高高度からの投下も視野に入れないといけない。前回のロモアラモスの様にイギリス海軍に囮にするのは無理だ。独逸の原爆開発がどれくらい進んでいるのか研究所の把握は英国情報部が必死になって探っているらしく、今回の目標も幾多のスパイと情報提供者の努力で判明した。犠牲も出ているだろう……宮藤はそう思うと誘導弾の成功率を上げたい訳だ。
「高高度の投下試験は硫黄島で何度かしてますが何れも大外れです」
「開発者を捉まえられないか?」
「他の事案で精一杯でしたが今回の事で一時的にこっちに戻れると言う事です」
担当技師はヤレヤレと言う表情で言う。報告書のやり取りでも疲れているのだろう。


数週間後の夜間、硫黄島近海には遊撃艦隊所属の西処女亜(ウェストバージニア)に若宮型水上母艦“北宮”が展開しており、海上に浮かべた筏の上には口を開けたドラム缶に燃焼物を入れて燃やしていた。
「標的筏のもやいを解け」
北宮は水上機母艦と言う性質上他の艦艇よりも多くの作業用小型動力船を搭載しておりこの様な試験支援にも用いられる事が多い。北宮は泊海軍飛行艇隊に配備され、土浦や大津に所属する各富嶽の支援を請け負うのである。筏から十分離れると北宮の艦橋にて上空旋回している富嶽各機に試験開始を暗号文で送る。今回は泊の試作機と大津と土浦から其々ニ機が参加している。誘導弾は標的となる筏周辺に落ちるばかりでその度に潜水夫らが海中に設営した網に引っ掛かった誘導弾を引き揚げていく。
うだつが上がらない作家志望の貧乏青年に見える男はぶつぶつ言っていた。彼こそ誘導弾考案者にて開発主任の田山 太助、後に誘導弾の権威と言われる男である。
「宮藤少佐、これは照準器や爆撃手の腕が原因じゃありません。制動版を変えてみましょう」
北宮の回転翼機発着甲板下に仮設された作業場に着くなり彼は作業を開始。技官らも作業を手伝う。
「高度一万二千mからの投下は想定外ですが照準機構が作動するのは地上三千〜二千です、強風下ではこれ自体がずれて命中許容範囲内に収まらない事は分かってます」
「うむ、先端にあるボロメーターが熱源を探知するとジャイロで姿勢制御し末端にある四枚の空気制動版が作動する。その装置を高い高度で作動させる訳だな」
「はい、そうしますと風の影響を受けますが……落下速度を速めて見ようと思います」
数時間後、尾部を取り替えた誘導弾が富嶽各機に登載され離水をした。
「泊一番機投下!」
標的の筏には廃油を染み込ませた木屑がはいったドラム缶から炎が上がっていたが誘導弾は命中したのである。
「やりましたな」
「まだです他の誘導弾に今と同じ空気制動版を変えてください」
その後も投下試験が続き、何れも全段命中した。
「急降下も爆撃も要らない爆弾か」
「いえ必要ですよ、最初の爆撃で大きな熱源にあると全部がそこに行ってしまう可能性があります」
「海に油を流して火をつければ……」
「熱源探知にはこの様な弱点があるので今後も研究を続けてます。独逸は既にあると見て間違いないでしょう」
「完成させているか」
「はい……米国もロ号弾頭の恐怖から開発する可能性も捨てきれません」
彼はそう告げると宮藤は言う。
「長い付き合いになりそうだな」
「ええ」
核弾頭を備えれば恐ろしい兵器になる……宮藤は震えた。

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