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戦艦空母艦隊
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戦艦空母艦隊 143

「襲撃者の素状は!」
通信室に駆け込んだ近江の艦長は逼迫している現場から送られてくる暗号通信の解読している通信士にも伝わる。
「朝鮮人の安重根です……陸軍が既に拘束してます」
奇しくも伊藤 博文を暗殺した“英雄”と同じ名称に言葉を失う。
「くそ……やられたか」
外務省から派遣された官僚は通信室のドアを叩いた。李家の殉職は海軍本部にも伝わり永田町を揺るがせた。李氏朝鮮王朝最後の一人が朝鮮人に暗殺された……今後の日本と高麗共和国との外交から民間交流まで影響が及ぶからだ。安重根はその日のうちに日本に引き渡される事になる、高麗共和国の司法で裁けても日韓併合を経験した朝鮮人には受け入れられないからだ。最悪政変が起きて古い思想を持つ人物が権力者にもなれば……朝鮮民族は世界から取り残される。

この事はイギリススコットランド某所に居る葵川にも届き、奇しくも会談中のチャーチル元首相も側近からの耳打ちで知る。
「恐れた事が起きたか……大変な事になるぞ」
葵川はナチスドイツ崩壊後の世界情勢にも一石を投じると感じていた。
「植民地政策を仕掛けた我が国も責任の一端がありますか」
チャーチルの言葉に葵川も頷く。
「高麗国は何故あんなに反発しているでしょう?」
「一つは高麗国の民族朝鮮半島族は“自分達が能力的に上だ”という驕りでしょう。ですが……」
「王朝は滅んだ……そして仏蘭西の様に民主主義は発達しなかった」
チャーチルは言う。
「そもそも日韓併合はロシア併合を防ぐ為です……」
これは朝鮮半島は元より、日本も含まれている。ロシアは地理学上不凍港を欲していたが何れも他国を侵略せれば不可能であった。黒海の場合は欧州との兼ね合いもあるので自然と東の果てにある小国であった日本に眼が向けられる……結果的に日露戦争によりある程度の戦力を見せ付け、今回の大戦ではトロッキー氏を支援した事で東シベリア共和国建国に至った。日本政府が東シベリア共和国に砕氷船技術を提供したのは第二次日露戦争防止の一手とも言える。
「今後はどうなりますかな?ジェネラルアオイカワ?」
「私もわかりませんな、ただ言える事は今後も旧植民地で同様な事件が起きると言う事です……要人警護の在り方にも問われる事になります」
葵川は何よりも心配したのは日本国内に居る朝鮮人の安否である。
関東大震災直後の朝鮮人襲撃及び殺害が多発した前例がある……今回の場合もデマにより同様の事件が起きかねない。これは後で判明したが事件の一報が入るなり朝鮮人の中には東京を出る者が続出、これを機に日本国籍に帰化した朝鮮人も出て来た。


近江八幡宮の札は艦橋にも飾られている。こちらは航海の安全を祈願したモノだ。
「見えました」
陛下御一行をピックアップしたチヌースは無事に着艦する……米海軍腕利きのパイロットもホッとした表情だ。
「本国から天照を旗艦した艦隊が向かっていると言う事です」
「日照丸との合流を急がせろ」
日照丸とは民間の客船で元は太平洋用高速客船である。当初は空母改装に徴発されたが橘らの政策より空母化を免れており特型特設潜水母船として運用していたが陛下の亜細亜歴訪と言う前代未聞の事業により急きょ“お召客船”として使われる事になった。ドック入りになると客室は大清掃と言うよりは大改装になり、職人の中にはユダヤ人や亡命ドイツ人も居て二十四時間体制で薄汚れていた客室を蘇らせたのである。バウスライダー新設、機関推進機材換装済みにより性能もアップしている。
「高千穂から通信です、“ゲンザイテキセンスイカントノコウセンチュウ、テキハ高麗海軍潜水艦ナリ”」
「Uボートか!」
「違います、高麗海軍改呂号潜です。既に高麗海軍水雷艇二隻が雷撃されて沈没」
「……まあよい、高千穂をただの戦艦と思って貰うのなら……そいつらは後悔するぞ」
近江の艦長はニヤりとする。


「捕獲用魚雷用意」
「捕獲用魚雷用意、大人げないですな」
副長はヤレヤレと言う感じで復唱する。魚雷発射管から魚雷が射出される。

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