PiPi's World 投稿小説

戦艦空母艦隊
その他リレー小説 - 戦争

の最初へ
 140
 142
の最後へ

戦艦空母艦隊 142

これは投下軌条があるので爆雷投下は出来る訳だ……規模こそ小型だが領海防衛の要と言っても過言ではない。それに海底電欖敷設は日本領海内に留まらないので郵政省が持つ大型海底電欖敷設船を敵潜により沈没されたらそれこそ面倒な事になる事は目に見えており小型でも海軍が独自に持った方がいい訳だ。これもお役所同士の付き合いに配慮した結果とも言える。
「しかし海洋観測船まで動員してまでも警戒はやり過ぎでしょう」
「ナチ野郎は日本を倒す為なら陛下の暗殺も選択肢に入っているからな……それに利用され易い民族も居るのなら殊更やるだろう」
参謀本部から派遣された将校は外務省から派遣された役人に呆れてややぶっきらぼうな口調で話す。海洋観測船とは海象現象の観測を行う船舶だ。
雑役船艇の一種で直接戦闘する訳もない……が、この船が無いと海図があっても作戦行動が円滑に出来ない。潮流(潮の流れ)から海水温度、海水濃度に特有の気象、気温や風向きは“海象”とも呼ばれており専用の機材による測定が必要である。測量船にさせれば良いと言う考えもあるが大型船舶では運用が困難な個所で事故を起して最悪の場合は沈没か若しくは座礁して脱出不可能となった場合は放棄、更に前線での活動故に敵航空機や敵潜の襲撃も想定される。そこで橘らは民間の中小ドックでも建造できる遠洋巻網漁船型船体を流用、要は海象現象を観測できる観測機材の運搬に船上での使用が出来れば大型船舶にする必要性がない。まあ失っても直ぐに建造できるし南洋の島々は大型船舶が停泊できない島の方が多い。それに海象現象を海運業者や漁師らに示す事で海難事故を減らせる事は国民にも恩恵を与える訳だ。
「海洋級か……第一海洋と第二海洋はもう代変わりは無くなったかな?」
第一海洋や第二海洋は共に太平洋や南洋での任務中に通信が途絶、米軍と思われる敵戦艦や敵航空機に攻撃を受けたのである。乗務員は死亡若しくは自決した事は布哇講和条約時に米国政府から通達、ただ数人は捕虜になったが太平洋艦隊司令官のキーガンは捕虜取り扱いの国際条約に沿っての扱いを厳命、その数人は後に釈放され帰国、その際海軍首脳部は咎める事も無かった。一昔の海軍首脳陣なら処刑もおかしくない。これも橘次官の考えが精神論に偏って無く、現実を見据えている事を示している。
「とりあえず……米国との戦争終結が出来た事はよかったですな」
「あちらもヒトラーを見くびっていたのだろう……ユダヤ人の保護に消極的なのもうかつ過ぎたよ」
最も米国との戦争が継続していれば日本も危うかったがこの危機を結果的に救ったのがユダヤ人だ。リトアニア大使杉原千畝氏の判断より日本通過ビザが発給されるも結果的に布哇や樺太で足止めされた。米国側が受け入れを渋ってしまったのだ……極東エレサイム共和国建国された背景の一つだが目的は戦後起こり得るエレサイム問題を解決するための手段とも言える。
もう一つはイスラム教圏内国家の理解したうえでの近代化援助である……キリスト圏内国家により数世紀に渡って蹂躙された所も多くこの様な事態になったのは旧態依然の宗教に支配された国家体制と考える者も多く、特に海外を知る者は祖国の現状を嘆いた。事実、イラン/イラクはこの様な考えの末に近代化を果たすも親ナチス国家だ。こうなるとナチス第三帝国崩壊後が怖い。より一層イスラム色強まってしまう恐れすら出て欧米各国を憎悪の標的にしかねない。つまり援助するには相手の民族性や宗教性を考慮する必要があると言うのが橘次官の考えだ。
「まっ、我々には陸ではどうする事も出来んよ……対潜哨戒を厳に各船に通達、ナチの野郎は手柄の為ならなんだってヤル連中だ」
近江の艦長は不安を払拭するように言う。


陛下一行を乗せたお召列車は釜山から首都であるソウル特別市へと移動……その間は高麗国鉄の全ての列車は運休になっており駅にはお召列車と警備為に先に付いていた護衛部隊の軍用列車数編成しかなかった。安全性を配慮した結果だ。
だがそれは国民生活に悪影響を及ぼす事を覚悟で高麗共和国政府の苦渋の決断でありここまでしないと他国の国家象徴をおもてなしする事が出来ない。政府は反日・抗日思想の根深さに苦しめられているのだ……日本を頼るしかないのだ、アメリカとの関係は始まったばかりであるがアメリカ側は日本の顔色を見つつなので高麗国としては歯がゆい感じだ。そんな努力も身を結んで建国以来初のロイヤルファミリーをおもてなしするチャンスを得た高麗国、だがその努力も一人の狂信的愛国者が潰し、影を落とす事になる。


「なにぃ!」
「陛下一行が襲撃されました!陛下は御無事です……ですが李家准尉が殉職されました」
近江八幡宮の戦勝祈願のお札が飾られた艦長室に駆け込んだ伝令に近江の艦長は絶句した。
「直ぐにヘリを飛ばせ!」
「既に離陸してます……現在はお召列車にてソウル特別市中央駅から離れてます」

SNSでこの小説を紹介

戦争の他のリレー小説

こちらから小説を探す