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戦艦空母艦隊
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戦艦空母艦隊 117

この施設で建造された商船は有事の際には無条件で徴用される……この頃の空母は元は民間船だったのが多いのもこの為だ。だが砕氷船は本土とサハリンを結ぶ大事な生命線だ……橘らはこの二隻の徴用を避ける為、危機的本土防衛の際に適用する改正、その穴埋めとしてキャンセルされた宗谷を含む三隻を買い取り宗谷型雑用運送艦として運用したのである。これにより二隻の砕氷船は今も民間で使われている、仮に徴用されたら国民は反発して共産主義に賛同する恐れもある……橘らの深い読みに当時の海軍主流派は理解できないだろう。実際雑用と言っても様々な仕事を流氷海域でこなすこの三隻も無くてはならない船だ。宗谷型は一種の試験艦でもあり砕氷耐久船体は飛鳥級の準同型艦“白瀬”の建造を初め砕氷耐久船体を持つ軍艦の竣工に大いに貢献、これが後に建国される極東エレサイム共和国海軍にも恩恵を受けるのである。
「艦長……随伴の駆逐艦から発光モールス、“敵潜水艦反応”」
「各水密扉全施錠、船員は各自持ち場に付け」
……今や砕氷船は極東エレサイムやシベリアとの冬季航路に欠かせない船だ。Uボートが北極海ルートを切り開いていれば真っ先に狙ってくる。
「機関最大出力、速度最大」
「手が空いている船員は双眼鏡を持って各方面警戒……」
随伴する駆逐艦は二隻を残して三隻がその地点に向かう。その隙に全力でその場を離れる宗谷……。
「司令部に通達しているな」
「はい!平文(暗号化されてない電報の事)です」
それでいい……付近を展開している近海防衛艦隊から対潜攻撃機を出している。
「エレサイム海軍の駆逐艦です」
エイラート型砕氷駆逐艦は松型に砕氷船体を付与したタイプだ。遠くで爆雷が作動した音が聞こえた。

極東エレサイム共和国は地理上流氷に覆われる海域に面しており必然的に軍艦は砕氷船になる……海軍総旗艦リヴァイアサンは日本海軍の白瀬型砕氷船艦であり、飛鳥型準同型艦であるので幾分小型であるが流氷が覆われた海では遠慮無しに作戦行動が出来る。伊勢級多目的装甲空母六番艦がウィンデーネ型多目的装甲砕氷空母として配備されたばかりだ。
「うかうかしてられんな」
宗谷の艦長は嫌な予感がした……。



 東京海軍参謀部も確定こそしてないがUボート出没と言う危機感に頭を悩む事になる。ドイツはほぼソ連を征服しているが隅々になるとロシアの大自然がその進軍を足止めにした。特に冬季は猛吹雪で部隊ごと遭難死するケースが相次ぎ、更にソ連残党軍はシベリア鉄道を根こそぎ爆破してウラジオストックに撤退したのである。ウラジオストックは事実上トロッキー氏らによる東シベリア共和国として独立しており対ナチス戦の急先鋒になっている。
ナチスドイツ陸軍の停滞を招いたのは間違いなくロンメルらの大脱走が原因だ……更にフラーが居なくなった事で戦車運用に置いて本国参謀部と前線との温度差が生じた、これが冬季の無理な展開を招いた。海軍は北極海ルートを確立出来れば空軍では無理であった東京を空襲する事が出来る可能性があるのだ。彼らはホワイトハウスを爆破した自信を持っていると言うよりは官僚化した本土参謀部の無理な要求を答えているのが現状と言える。
「米国政府も原子力潜水艦を出してくるでしょうな」
「原潜、ああ核物質反応炉で動く潜水艦か」
建御雷に雷撃を仕掛けたと推定されるアレをオホーツクの海で試されるのは癪だが仕方ない、橘は宗谷や随伴した駆逐艦戦隊の報告書を見てため息をついた。
日本海軍が砕氷艦を持つ事になった事件がある、1920年にロシア内戦時に起きた尼港(にこう)事件、アムール河河口にあるニコラエフクス市に住んでいた市民が赤軍パレスチナによって大量虐殺され日本人も軍人や市民合わせて731名が殺害された。結果的にこれはシベリア出兵を長期化させる事になるのだが問題はこの事件が発生した当時は事件現場周辺海域は流氷に覆われている三月とあって通常の戦艦や船舶では事件現場や周辺の港湾施設に接岸する事は不可能であり、四ケタの犠牲者を出す事態に陥ったのである。この様な事態はまた起こり得る……国内世論も沸騰している中とりあえず急遽であるが日本海軍は砕氷艦大泊を竣工させる事になったのである。クーデター前の海軍主流派はこの事件を過小評価していた節もあるが逆に橘らはこの様な事例がまた起こり得る事を危惧していた。
「次官どの大泊(二代目)が無事に実戦投入しましたぞ」
「そうか……」
琵琶湖型特型輸送艦をベースに砕氷船化したのが二代目大泊で初代と比較すると格段に性能が向上している。

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