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lost/bombs
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lost/bombs 84

雄太のように体温を調節してるわけでも骸のように炎を操作している様子でもないのに凍りつかない紅兎に目を丸くする朧に彼女は拳を構える。
「凍結なんてちょっと揺らしただけで簡単に解けるっすから」
そして彼女は構え、拳でも膝でも肘でも頭でもない、背中の打撃が朧の身体に打ち込まれる。
防御はしていた。それなのにその防御ごと吹き飛ばされた。
紅兎の両足が地面を踏み砕き、彼女の身体が一つの塊となって相手に叩き込まれる近接戦闘技法、八極拳の一つ≪破山靠≫。体重五十キロもない小柄とはいえ、その塊が急激加速して叩き込まれた。朧の身体が木の葉のように回転しながら吹き飛ばされる。
「体重は無くても獣の加速を使えば破壊力を跳ね上がるっす」
「太極拳は見たことが無かったな」
雄太が地面に倒れた状態で呟く。中国拳法の殆どは技一つ一つを極めることで成る剄によって成り立つ。肉体を強化できる雄太は技ではなく力で為すから、殆どの技が見様見真似だ。
「太極じゃなく八極っすよ」
「違いなんぞ知るか」
「ま、陳式とかもあるんで拳法も色々面倒なんっすけど、ただ一つ―――」
紅兎の拳が変わる。握りこぶしから掌底と拳の中間のような形へと。同時に彼女の身体から漂う匂いが変わった。前から死臭はしていた。しかし濃度が増した。
「素手で相手を殺せるってことは変わりないっっす」
「おいおい、なんかサマになってるな。衝撃波とか操っていたよりはよっぽど」
「子供の頃からっすからね」
「なんかワクワクしてきた。殺し合いの時とは違う、なんだろうな。この高揚感」
殺人の時は全身が炎になったような灼熱感があった。緊張であり本能のようなものだ。しかし目の前の敵を見る今は違う。心臓が脈動が上がり、拳を打ち込まれたい、という考えすら浮かぶ。雄太は立ち上がる。右腕を失ったバランスを調節して拳を構える。
「言っときますが、こっちは殺す気っすから」
「ああ、俺は殺さない気だ」
走り出したのは雄太だった。強化してない脚力で相手の懐にも潜り込み、そして肘で返された。
「ごふっ!」
たった一発、獣人体とはいえ桁外れの威力に胸を押さえながら、それでも雄太は笑う。面白いと笑いながら蹴りを放つ。流れるような足捌きで交わされ、そして背中での打撃≪靠撃≫が来る。

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