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lost/bombs
その他リレー小説 - アクション

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lost/bombs 21

人狼少女は自分の分のリンゴをシャリシャリと美味そうに食べる。
雄太もそれに見習いリンゴを齧る。口の中に広がる甘酸っぱい味とリンゴ特有の水分。思った以上に体が水分を望んでいたようで、気付くと芯以外は食べ終わっていた。
手に残った芯をどうしようかと迷っていると人狼少女はリンゴを窓の外に捨てる。追っていた目線の先でリンゴの芯は空から飛んできた巨大な蜻蛉に捕まり運び去っていく。
「掃除蜻蛉。ゴミなら有機物無機物関係なく食べる、この街の掃除屋だ」
淡々とした口調だった。
雄太も見習い、リンゴの芯を投げ捨てると新たな蜻蛉が攫っていく。
木霊する朝の騒音の中で奇妙な静寂。
双反する二つの中で雄太とオボロの二人は在った。
口を開いたのは雄太が先立った。
「何故、俺を助けた?」
「お前が私を助けたからだ。だから助けた」
沈黙。助けたのはお前の方が先だと言おうとしたが頑固そうな顔をしてやめる。外の騒動を無視して雄太は全身の神経を研ぎ澄ませ、治癒した割合を想像する。
「六割程度か」
「・・・・・・・・」
己が思ったよりも早く人狼少女が言う。正解。極度の強化によって筋肉は切断寸前、神経は炎症を起こし、体の動きは鈍い。この状態での戦闘でも並みの相手は殺す自信はあるが目の前の少女の場合は厳しい。単純にそう思いながらも血管を操作し、エンジン(心臓)へとニトロ(血流)を叩き込む。
何故、力を蓄えたのかはわからない。もし理屈とすれば、それはこれから起こることに対する備えだったのかもしれない。
激しい音と共に扉が大きく開けられ、一人の男が入ってきた。思わず構えようとするが朧が溜息をついているのを見てやめる。
「おうおう、起きたようやな」
朧と同じ銀髪をボサボサに伸ばし黒いサングラスを嵌めた二十代後半ぐらいの男。太っているというよりはむしろ痩せている方だが全身からみなぎる生気は鋼のように強靭さを思わせる。
人狼特有の耳はないが同じ髪の色からしても朧と同族。
「誰だ、お前は?」
「俺か。俺の名前は水月骸。弧月の名を継げなかったら半端者だよ。あんたこそ誰だよ。俺は名乗ったぞ。お前も名乗るが礼儀だろ」
淡々とした言い草を呟きながら腰の皮ズボンのポケットから煙草を取り出し口に加える。いつ火をつけたのか。その先っぽから紫煙が立ち昇る。

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