天使に牙を、悪魔には涙の唄を、 3
おおよそ、真実などどこにも無いくだらない世界が俺達の上には広がっているんだ。
ここまで書くと、まるで俺たちが人間のように思えるだろう。
確に、違いもあるが、僅かな点だけだ。
俺たちには世界の理に干渉する権利がある。
何も無いところから火を起こし、風を起こし、雨を降らせ、人間一人一人の歴史、アカシックレコードに干渉し存在を消すことができる。
・・・・・・そして、命令には逆らえない。
自分より、位が上の存在には絶対に逆らえない。
本能的なもので縛られているため、逆らうことには多大な精神負荷、肉体的苦痛がかかる。
まぁ、別にそれさえ無くせば死なない人間だ。
羨ましいこともないだろう?
どこまで歩いただろうか?雨はいつのまにか止んでいた。
遠くの空が、うっすらと明るい。
もう、悪魔たちの時間は終った。
彼らはどうも時間に律儀だ。
他の約束は守らないが、日がでている時は絶対に悪さをしない。
その影響か、狂ったような若者達の集団も姿を消す。
だが、悪魔が時間を守るように俺達天使にも制約がある。
日が出ているとき、地上にいる天使は人間に構造を変える。
今の俺は、なんもへんてつのないただの人間だ。
・・・・・・・・・・・・
そういえば、色々話をしてない気がする。
まず、何故俺が人間のことを嫌いなのか話そう。
原因は、目の前にいる。
「おっはよー」
・・・・・・。
俺の目の前にいるのは、人間の雌。
明るく活発なタイプ。
高校生。
俺の幼馴染み。
・・・・・・らしい。
らしい、というのは俺がこの環境を自分で設定したわけではなく、生まれた日初めての命令を達成して朝を向かえた時、こうなっていたのだ。
・・・・・・・・・・・・
「あぁ、おはよう」
仁王立ちしている彼女、佐伯瞳(さえきひとみ)の隣を片手をあげただけの挨拶で通りすぎようとする俺、人間での名前は藤堂直斗(とうどうなおと)
彼女と同じ学校の2年生、彼女は一年なので一つ先輩だ。
「ちょっと、待ちなさいよ」
もう一回言おう、俺は先輩だ。
「お前が敬語を遣えたなら、待とう」
瞳は頬を膨らませ、むぅーっと唸り声をあげる。
風が吹く度、艶やかに揺れる長い黒髪。
大きな目に、似合わない背の高さがプラスのアンバランスを生みだし、可愛さを演出していると友人、斎藤太悟(さいとうだいご)は語る。
・・・・まぁ、たしかに可愛い方だが。性格がイマイチ・・・・・
「何よいいじゃない。幼馴染みでしょ?」
早い足取りで瞳に構うこと無く高校へ向かおうとすると、慌てて追い付いた瞳が下から俺の顔を覗き込む。