天使に牙を、悪魔には涙の唄を、 1
俺の前に1人の男がうずくまっている。
もうこんな光景を何度見てきただろう。
男は黒いズボンの右膝と淡いグリーンの左肩それに左脇腹から大量の血液を垂れ流していた。
血液は男の服を汚すが1時間ほど前から降り始めた土砂降りの雨が血液を綺麗に洗い流していく。
大量の血液を流しうずくまる男の顔色からはすでに生気がなく、もともとから窪んでいたであろう眼下はさらに窪み、今や両の瞼は眼球が飛び出さんばかりに見開かれた目から俺を見ている。
「助け…て、くれ、じ…慈悲を…頼む……」
男は息も絶え絶えに懇願してきたが俺は右手に持ったままの拳銃を男の頭に突き付ける。
「過去の奴らで、聞き飽きた」
パンッ!
脳天に穴が開いた男は四肢を痙攣させながらゆっくりと、もたれ掛かっていたゴミの山に沈んでいった。
俺は左手で携帯を開き、数少ないメモリーのひとつを選択した。
『終わったか』
相手は2コール目が終わらない内に通話に出た途端、抑揚の無い声でそう言った。
「はい、笠木町2丁目の雑居ビルの路地裏です。雨音で銃声を聞かれた可能性は低いです」
『分かった、もういいぞ』
「死体はどうします?」
『今回は見せしめだ。そのままでいい』
「分かりました。失礼します」
俺は携帯を閉じ、38口径の拳銃を懐に仕舞うと羽織っていたコートのフードを被り繁華街の方に足を向けた。