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Private Excution
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Private Excution 10

「彼女は《セブンス・ヘブン》の恩恵を受けているのだよ」
何が恩恵だ。朔馬は心の中で毒づき、舌打ちする。
少女は相変わらず感情のい、焦点の合わない瞳で朔馬を見つめている。…いや、その視線が、どこに向けられているのかすらわからない。
少女が床を蹴る。どれほどの力がその細い足に秘められているのか、恐ろしいほどの速度で朔馬に肉薄する。
荒く、正確さはないが、そのナイフのスピードに驚く。
朔馬はその刺突を刀の腹で受け止めるとその勢いのまま受け流す。少女がたたらを踏むと、俊敏に横に回り込み、コンバットナイフを下から跳ね上げる。
ナイフは入口の方へからからと滑っていく。
それでも少女は怯まない。
ナイフを奪われたことを全く気にすることなく、右のフックを繰り出す。朔馬が左手で防ぐと、続けざまに左のジャブを放つ。いずれも女子高生のパンチではない。やたらと重く、速い。
3発目のジャブをいなし、朔馬が回し蹴りを放つ。しかし、成人男性の背骨をも易々と砕くその蹴りを、手加減したとはいえ少女は左手一本で凌いで見せる。やはり、筋力、反射速度、瞬発力とあらゆる能力が向上していることが伺える。
カウンター気味の右の掌底をかわし、変形の大外刈りで少女を押し倒す。こんな状況でなければ、大声を上げられて警察が駆け付けそうな展開だが、むしろ苦しそうな表情を浮かべているのは馬乗りになっている朔馬の方。
「あんた、何やってんだよ」
むしろ優しげな朔馬の口調には、苦い響きを隠せない。
しかし、返って来たのはローファーの靴裏。信じ難い威力に、朔馬の体が飛ぶ。不快な浮遊感に包まれながら、体をねじり、バック転の要領で立ち上がる。
眼前に迫る、幼さを残す顔。近くで見ると割と調った顔立ちをしているのだが、それどころではない。
紙一重でスピードの乗ったストレートを避ける。スピード、パワーは申し分ないが、何より動きが直線的過ぎる。見極めてしまえば朔馬には問題にならない。
「あんた…人殺しの道具にされてるんだぞ」
相変わらず穏やかな口調。けれどその諭すような声色に、言い知れぬ強さが見え隠れする。
すらりとした白い足が伸びる。しかし側頭部を狙ったハイキックもあえなく片腕で防がれる。既に少女の動きは完璧に見切られている。朔馬にはもう、通用しない。
「もう一回だけ訊く。あんたは、これでいいのか?」
語気が、少しだけ強くなる。ただ変わったのはそれだけではない。
瞳が、揺れる。
ゆっくりと、右足が地に落ち、そのまま頭を抱えて両膝をつく。そして、小刻みにその細い肩を震わせる。
「あんたの、意志なのか?」
「…ぅ」
呻くようなか細い声が漏れる。
「違う…あたし…あたし…!」

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