Private Excution 1
これは、現代よりもちょっとだけ未来の話。…とはいえ、車が空を飛んでるわけでもなく、猫型ロボットの開発もされていない。つまるところ、現代とはあまり変わらない世界。
しかし、一番変わっていないのは、人の心。平安時代のつくり物語が、現世の読者の心を掴むように。ただ、これはそんなに風流な話ではないことは、最初に断っておこう。これは、『人間』の物語──
「──今回のは少し強力過ぎるかもしれナイ」
痩身の男が、ジュラルミンケースを差し出す。顔形は似ているが、そのイントネーションは、日本人のそれとは若干異なる。
「構うことはないさ。需要と供給の問題だ。買手はいくらでもいる。イカれた、愚か者共がな」
くくく、と笑う男は明らかな肥満体型。こちらは日本人のようだ。
深夜、人気の無い埠頭の廃倉庫。薄闇の中で、悪意がうごめく。
『おっさん』
闇を切り裂く声。まだ若い、男の声。
ぎょっとして、二人が辺りを見回す。
『こっちだっつの』
からかうような声は、倉庫の窓際から。
──子供?
肥満の男が訝る。
天井に近い、高い位置に開いた窓からは月の光が差し込んでいた。
それを遮るのは人型のシルエット。
痩身の男はその姿を認めると、間髪入れずに懐から拳銃を取り出す。放たれた銃弾は、サイレンサーにより音を殺され、気の抜けた音を奏でつつ、影へと猛進する。その手慣れた素早い手つきでは、かわせる筈はなかった。
だが、そのシルエットを破壊するには至らない。代わりに、背後の窓からすがけたたましい音を立てて崩れ落ちる。
人型の影は、わずかに横に移動しただけで、殺意の弾丸をかわしたのだ。
それを見て、ただことならぬ雰囲気を察知した肥満の男が指笛を鳴らす。
同時に、無数の弾丸が、湿った空気を灼(や)く。
甲高い音が、響く。
黒い影が右手に持つのは一振りの日本刀。
暗闇から、驚愕の気配。二人の男の背筋にも、冷たいものが伝う。
合計八発もの弾丸を、あの少年は刀だけで防いでみせたのだ。その刀身は、銀色に美しく輝いている。
影が、消える。
そして聞こえてきたのは、闇に潜んでいる筈のボディガードのうめき声。
もはや、二人の男にできることなど残されていない。ただ、八人の屈強な男達が、たった一人の少年によって薙ぎ倒されていくのをただ眺めるだけ。