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Private Excution
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Private Excution 9

蒼依は器用に鈎爪の爪と爪の間に刃を潜り込ませると、力任せにそれを捻る。総次は右手を持っていかれまいと体を同じ方向に投げ出す。そしてうまく刀から鈎爪を引き抜くが、その眼前には蒼依の端正な顔が迫っていた。銀色の閃きは、総次の胸から血飛沫を巻き散らし、思わず総次が背後に飛ぶ。
突然だが、鈎爪という武器は、体術の心得と自信がある人間が好んで使う、接近戦専用の武器である。
総次は苦痛に顔を歪めながらも笑っていた。それが意味するものを、蒼依は分かっていなかった。
鈎爪が、伸びる。
──否、伸びたわけではない。飛んだのだ。全く不意を突かれた攻撃。しかし右手の鉄甲から射出されたそれが蒼依の頬を掠めただけで済んだのは、蒼依の常識離れした反射神経ゆえである。
が、甘かった。
ざく、という不愉快な音と同時に、蒼依の右の肩甲骨のやや上辺りに、灼熱感が広がる。
総次の鉄甲からは、鋼線が伸びている。
それでも咄嗟にそのラインを叩き斬った手際は流石と言わざるを得ない。すぐに鈎爪を引抜き、軽く呻いて捨てる。
総次が勝利を確信した笑みをたたえて近づいてくる。
「…あたしたち《枢公院》七官以上の執行官の武器にはね、それぞれ名前があるのよ」
「ほぅ」
全く脈絡のない、蒼依の呻くような言葉を、どのようにとったのか、総次勝ち誇った笑みを崩さない。
「あたしの刀の名前は──」
左手を刀身に添え、震える右手で、刀を眼前まで持ち上げる。
「──《烏揚羽》」
  呟くように言うと、右手の親指で頭──柄の一番下の部分──押し込む。
総次は一瞬怪訝そうな顔をしたが、ハッタリだと理解したのか、鼻で笑うと、またゆっくり、蒼依へと歩き出す。
変化は、劇的。
突然、片膝をつく。何が起こったかわからず、総次は驚きに目を丸くする。しかし、もう片方の膝もつくと、瞬く間に床に突っ伏す。
これが、《烏揚羽》の能力。本来、刀身に強い衝撃を受けると黒い、鱗粉を模した粉が舞い、それが徐々に体の自由を奪う、というものだが、今回は無理矢理発動させた形になった。しかも、周りの黒煙で、《烏揚羽》の鱗粉を確認できなかったのも大きいだろう。もちろん、蒼依はそれすらも計算に入れていたのだが。
「ホントはこのまま死ぬ可能性もあるんだけど、空調効いてるから、死ぬことはないわ。多分」
そう言い残すと、もだえる総次を背に、蒼依はゆっくりと朔馬の後を追った。

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