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Private Excution
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Private Excution 5

そう言って、朔馬が蒼依を先に促す。蒼依は俯き、しばし何かを考えるような仕草をしていたが、やがて何かを吹っ切るように顔を上げ、朔馬が作った入口に飛び込んだ。朔馬は朔馬で、不審なパートナーの様子に気付いてはいたが、何も言わないということで深くは詮索せず、続いて穴に飛び込んでいった。

 カツン、カツン…
 薄暗い地下室に、二つの足音が響く。
 朔馬が開けた穴は、想像より深かった。つまり、それは思いの外スペースが広かったということで、通路は地下特有のジメジメした感じがしなかった。
照明設備も整備されているようで、明らかによく利用してます、といった感じ。
 それで、二人は今下りの階段を降りているところ。
「…なぁ」
「何?」
 不審そうな朔馬に、蒼依が振向きもせずに応える。その口調に、感情は、無い。
「たかだか覚醒剤の貯蔵庫に、どうしてこんな長い階段がいるんだ?」
「さぁ…」
 こともなげに言って、蒼依は前を向いたまま先ほどの端末を朔馬に向けて放り投げる。片手でそれを受取り、ディスプレイに目を落とした朔馬が眉間に皴を寄せる。
そこには、だだっ広い空間が図示されていた。大きさで言えば、普通の高校の体育館の3倍ほどあるだろう。しかも、一つの不自然に馬鹿デカい空間を含め、部屋が全部で四つほどしかない。
「ただの…貯蔵庫じゃ、ないな」
 思わず苦笑がこぼれる。
「そうね…っ?!」
 蒼依が足を止める。すぐ後ろを歩いていた朔馬が思わずその後ろにぶつかりそうになり、彼女の背中に向けて抗議の声を上げようとしたが、身に纏う非日常的な空気に口を閉ざす。
「ふん…どこのネズミが迷い込んだと思えば…政府の役人様か」
皮肉な声は蒼依の視線の先。朔馬が蒼依の肩ごしに覗くと、そこには開けたスペースの先に重そうな金属製の扉。そして、開かれたそれの斜め前には30後半〜40半ばほどの男の姿。筋骨隆々としたその容姿と瞳の輝きに友好性は皆無だ。
「ごめんなさい。少し迷ったみたいで」
 そう言いつつ、蒼依の右手が空に手を伸ばす。そして、次の瞬間には、一振りの日本刀が握られていた。一見不思議な光景ではあるが、ちゃんとした理論がある。それもいずれ説明することにしよう。
男がせせら笑う。
「朔馬」
「ああ」
 その短いやりとりで、意志を交換する。

 朔馬の体が、沈む。

──ギィン!

 甲高い擦過音。いつの間にか、男の右手には鈎爪つきの鉄甲が装着されている。
 振り下ろされた殺意をすり抜け、朔馬が駆け抜ける。
「一人でいいのか?」   男が口元に笑みを作る。
「あいつは、あたしより強いわよ」
 左手で刀身を支えながら、蒼依が言う。その唇の端も、わずかにだが釣り上がっている。
「あいつじゃない」
 男が鈎爪を引く。
 姿が、霞む。
「お前だ」

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