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Dandelion
その他リレー小説 - アクション

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Dandelion 10

部員の中には、彼に心酔して内戦に身を投じたものも多い。
白けた気分でぽり、と頭をかく彼に、戸部は変わらぬ調子でこう続けた。

「帰る家を失ったお前に朗報だ。男子寮に入寮の手続きをしておいた。今日からはそちらに住め」
「…は?」

神崎は目を丸くした。

「必要ありません。俺は家を失っていない。このひと月は警戒態勢で第二要塞内兵舎にいたけど、もともとは麓の閑ヶ岳兵営に、」
「第二要塞、および付属施設への接近は許可しない」

戸部は静かに、しかし断固たる口調で彼の言葉を遮った。

「…どういうことです」
「聞いた通りだ。鈴間第二要塞は墜ちた。あれはすでに敵方のものだ」
「バカな!」

神崎は、机に手を叩きつけた。

「掲揚塔に旗をあげれば、敵のものですか?兵営にはまだ同志がいる。奪回は十分可能です」
「榴弾砲台が破壊された。物資も既に搬送されたのが確認されている。奪回したところで、あそこにもう使い道はない。守りきれなかった以上、歩兵部隊にできることはもうない。無駄な仕事はさせるな」
「…っ!」

神崎は知らず、刀の柄に手をかけた。だが高ぶるままに抜き放ちかけた刃は、次の瞬間、カチリと音を立てて鞘に戻っていた。
…戻されたのだ。抜刀の一瞬に、加須原が彼の左に突如現れ、柄頭を押し込んだ。

「激昂すんなよ。お前らしくもねえ」

火嘉ののんびりした声が、右の耳元で聞こえた。
うなじに、手首に仕込んだ匕首の先端が触れている。

「……」

無言のまま、戸部が手を軽く振った。加須原と火嘉が、体を退く。

「気持ちはわからんでもない。一般の同志との意識の共有は、志をより強固にするものだ…しかし」

戸部が、机の上で指を組み替えた。

「お前はもう一兵卒ではない。一つの名を持つ駒だ。歩兵と己を同一視するな。それは彼らに対する侮辱でもある」

戸部の言葉に、神崎ははっと顔を上げた。

「お前にはお前の役割がある。それを忘れるな」
「……すみませんでした」

神崎はしぶしぶ謝った。
嫌そうな調子に気付いたのだろう、戸部は小さく笑った。

「わかっているだろうが、確認しておく。第二要塞を失い、鈴間は制圧された。よって、しばらくデカい戦はないと思え。神崎」
「はい」
「これからは、こちらの仕事に専念してもらうぞ。とりあえず明日から、この学校を獲ろうと思う」

火嘉と加須原が、軽く目を瞠って戸部を見た。

「始める…のか」
「そうだ!」

声をひそめた火嘉に対し、戸部は高らかに宣言した。

「始まるぞ。…俺達が、始めるんだ。火嘉」

火嘉はなぜか目を伏せた。
戸部は静かに笑って彼を見た。そして、いっそ優しいとも言える口調でこう締めくくった。

「我々のすべきは、終わらせないことだ。革命の火種を蒔き続けることだ。火が燻っている限り再燃の時は来る。おそらく…そう遠くはない日に」

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