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Dandelion
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Dandelion 11





なし崩しに、寮に入ることは決定となっていた。

神崎は、2−7の教室に戻るべく廊下を急いだ。明日までに提出する課題を置いてきてしまったのだ。
南向きの校舎に、西日が斜めに射し込んでいる。が、それも沈みつつあった。橙に染まった壁が徐々に墨色を帯びていく。

教室には、まだ人が残っていた。
彼の隣の席。蔓木だ。
彼女は、神崎の気配に気づいたのか顔を上げた。薄暗い教室に、小さな顔がほの白く浮き上がる。
少女は笑って、神崎くん、と彼の名を呼んだ。
刀は部室に置いてきた…が、血の臭気が体に残ってはいないだろうかと、神崎は急に気になった。

「えらく遅くまで残ってるんだな」
「うん。先生にちょっと頼まれちゃって」

彼女は机の上に積まれた資料を示した。

「もう外は暗いぞ」
「平気。どうせ寮だし」

神崎は、はたりと止まった。

「蔓木、寮生だったのか」
「知らなかったの?」

蔓木は驚いたように目を瞠った。
一年の時から同じクラスで、それなりに口もよくきいていた。まさかそんな基本的なことを知らないとは思わなかったのだろう。
蔓木の軽く傷ついたような口調に、神崎は謝罪した。

「悪い。…寮ってどんな感じ」
「女子寮はわりと居心地いいよ。どうして?」

案に相違して、蔓木は彼の謝罪を気にも留めない様子だった。
神崎は、今日から入寮することを彼女に告げた。

「そうなんだ?女子寮はね、建物きれいだし、自治会もしっかりしてるから不自由はないかな。うちの寮目当てで入って来る子もいるんだって。男子寮のことは知らないけど」

蔓木は首をかしげたが、神崎の急な入寮の理由を訊いては来なかった。事情があることを察したためだろう。
神崎は、彼女の机の資料を半分引き取ると、自分の席に座った。
ページ順にまとめて留めて行くだけの単純作業だ。二人ならすぐに終わる。
黙って作業を始めた神崎に、蔓木は困惑しながらも、うれしそうにありがとうと言った。

蔓木との会話は、彼には楽しかった。
彼女から感じられる、そこはかとない好意がひどく心地よかった。
他の女生徒相手に、こんな感覚を抱いたことはない。
彼女の持つ、古風な意味での少女らしさ…清楚で華奢ではかなく、どこか謎めいた空気が、単純な話、彼の好みに合っていた。

完全に客観的には、蔓木郁の容姿は華やかさや甘さからはほど遠い。
黒ぐろとした硬質な目は、見つめられた相手に緊張を強いる性質を持っていたし、端正な顔立ちは、人間味に欠けて見えるほどだった。
彼の前ではよく笑うので、冷たい印象が和らいでいる。ために、神崎はその事実に無自覚だった。

他愛のない会話をひそかに楽しんでいると、不意に教室の蛍光灯が点灯した。
白光に目がくらむ。
薄闇に目が慣れてしまって、灯りの必要に気付かなかったのだ。

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