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Dandelion
その他リレー小説 - アクション

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Dandelion 1

紅く輝く刀身には、同じ色に染められた人の姿をした獣が映し出されている。年齢だけで言えば、少年と呼んで相違ないはずだが、彼の纏う威圧感がそれを許さない。
時刻は夕暮れ時。周囲に見えるのは橙色に染められた屍と瓦礫の山だけ。その亡骸の肩には封改派の印章。嗅ぎ取れるのは血と死の香り。始めはその光景に吐き気さえ覚えたが、今ではそんな地獄に何時間いようが、何も感じない。その地獄には鬼もエンマもいないから。いたとしても、きっと自分には敵わない。そう、信じていた。
少年は、自分でも不思議なぐらい冷静に、通信機から流れる放送に耳を傾けていた。ノイズ交じりのひび割れた声は、真戒派の敗北を宣言していた。
3ヵ月という時間は、内戦としては長いのか短いのかもよくわからない。別に言い訳をするつもりはない。間違ったことをしたつもりもない。ただ、いくつもの命の芽を摘み取ってきたという、厳然たる事実が少年の眼前に横たわっていた。
──ポツ、ポツ、ポツ…。
少年の軽鎧に黒い斑点が刻まれていく。見上げれば、濃い灰色をした雲が先程までの茜色の空を飲み込んでは、その触手をだんだんと伸ばしていた。そこから降り注ぐ雨は、少年の血を溶かしては流れ、荒野に染み込んでいく。
どれぐらいそうしていただろうか。雨脚は次第に強まり、荒れた大地のキャパシティを越えた量だけ、水たまりが増えていく。そしてそれらは徐々に大きくなり、複数の水たまりは一つのちょっとした池になる。
ショートした通信機からはもう何も聞こえない。ただ、焦げた匂いが鼻を突く。それでもかまわない。もう血の匂いは嗅ぎ飽きた。
闇色の池に沈む無数の屍をもう一度見回し、少年は、ゆっくりと、目を閉じた。
背中にじっとりとしたイヤな感触を感じて、少年は目を醒ました。
──先に彼の紹介をしておこう。彼の名は神崎 北斗(カンザキ ホクト)市内の私立高校に通う、どこにでもいる、普通の高校2年生で16歳。一見。
北斗はゆっくりとベッドから下りると、乱暴に汗の染み付いたシャツを脱ぎ捨てた。
窓に目をやり、見えたのは青地の旗。中央には開いた門から目が覗いている。“歴史の扉を開き、真実を見る”と言う封改派のシンボルだ。それ以上の深い意味があるのかないのかは神崎は知らない。
「負けたん…だったな」神崎は誰に言うでもなく、呟く。
昨日までは真戒派きっての大要塞であったここ。いつの間にか封戒派の兵が押し寄せ自分達の印章を残していったを。傷付いた仲間たちが今だにベットの上でイビキをかいている。

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