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Dandelion
その他リレー小説 - アクション

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Dandelion 9

苦し紛れの火嘉の言葉に、ぴくりと、加須原のこめかみが動いた。
表情に変化はないが、ひょっとして動揺したのだろうか。神崎は思わず彼の様子を凝視した。
この男にもそんなところがあったのか、と妙に感心してしまう。
この万年仏頂面の辛気くさい男の、初恋の逸話…そんなもの、聞きたいに決まっている。




鈴間市閑人町。

鈴間市は真戒派現党首の出身県の中心市であり、党の活動本拠地である。
長く続いた内戦で、日本各地の拠点の大半は制圧されてしまった。多数の支持者を抱え、最後の砦とも言えた鈴間市にも、往時の勢力はなく、かろうじて中立を保っている現状だ。
…現状、だった。
それも過去の話となってしまった。
鈴間市の擁していた最大の要塞が、昨日、陥落した。

私立清閑仁高校は、要塞の置かれた山地からバスで十五分ほどの田園地帯にあり、質実剛健を校訓とする歴史の古い学校である。
市街地に附属中学があり、ほとんどの生徒はそこからエスカレーターで上がってきていた。神崎は数少ない例外だ。


「任務遂行、ご苦労だった」

園芸部の部室に入ると、代表の戸部鉄也がすでに待っていた。

部室内には、ミーティング用の机とロッカーをのぞいて、ところ狭しと植物の鉢が並んでいる。外の温室に入りきらない分だ。
特殊園芸部の名にふさわしく、その辺で見かけるような花や野菜はない。
変わった形のサボテン、変な色の百合、どこかのジャングルにしか生育しないような、鮮やか派手な食虫植物などなど。
わざわざ種を海外に注文して、ネットでの情報交換や外国語の解説書を頼りに育てている。
何でもかんでも種から育てるのが部の趣旨だ。
神崎が入学時に種をまいたサボテンは、何とかトゲは見えるものの、まだ小指の先ほどにもなっていない。

肥料の臭いや土の臭気にはいい加減慣れた。しかしこの部室の雰囲気に、神崎はなかなかなじめなずにいた。
ほとんど粉粒のような小さな種から、けなげに身を起こす植物を見ていると、どうも心が和んで良くない。

窓際に置かれたマイサボテンに、思わず注視していた神崎を、戸部の声が引き戻した。

「特に神崎。昨日の襲撃に耐えて、今日、よくここに来てくれた。お前の無事を心から喜んでいる」
「はあ…」

神崎は、居心地の悪い思いをした。
戸部は苦手なのだ。時代がかった物言いや、いかにも知性的な容貌が、彼の言動を芝居じみたものにしている。
もっとも、そう感じているのは神崎だけらしかった。

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