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Dandelion
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Dandelion 8

神崎はあらぬ方を向いた。火嘉は彼の直属の上司にあたる。そのためかどうかは知らないが、ほとんど必ずと言っていいほど、彼の任務には火嘉が同行していた。
いや、逆か。
火嘉の任務に、神崎がおまけでくっついている。

「そう言うな、神崎。火嘉はお前のために、獲物を残してくれている」
「それが…」

それが嫌なんだ。
神崎は漏れそうになった本音を飲み込んだ。

火嘉はその気になれば、初撃で対象を全滅させることだってできる。実際、神崎が入部するまで、彼はいつも単独だったという。

合戦場で生き残り、火嘉に拾われてから一年。
歩兵として、生き残るためならば何でもありの戦場の経験しかなかった神崎に、彼が何を見いだしたのかは知らない。だが彼は最初に神崎を拾った責任を、正しく果たしていた。
周りにあるもの全て斬り伏せればよい戦いではなく、明確な標的を持ち、ひそやかに、速やかに終わる闘いの仕方を、こうして教え込んでいるのだ。

…いい気分のすることではない。
特に、腕に覚えのあるつもりでいた神崎には、火嘉の手の内で、安全に庇護されながら闘っている現状は、我慢のならないものだった。
力及ばず敗北しても、彼が死ぬことはないのだ。…ずたぼろになるまで、放置はされるが。

神崎の複雑な表情を、黙って眺めていた加須原が、彼の物思いに口をはさんだ。

「重要なのは、無駄のないことだ」
「は?」

脈絡があるのかないのか微妙な言葉に、神崎は間の抜けた声を上げた。
加須原は気にも留めない様子で続ける。

「形村の剣は、以前のお前ならば捉えられなかっただろう。成長しているということだ。今はそれでいい」
「…どうも」

神崎はとりあえずそう答えた。
たぶん、加須原には励まそうという意思も、説教をする気もない。思ったことを大まじめに口に出しているだけだ。彼にはそういう傾向がある。

だが、成長を認められるのは悪くない。



神崎と加須原の二人は、返り血にべっとりと濡れたレインコートを脱いで、その場に投げ捨てた。
公英会の下位部員には、後始末の担当がいる。彼らが、証拠と目撃者の始末、後片づけ、時には現場の飾り付けもする。
役割は決まっている。神崎たちは斬るだけの役なのだ。

一人、当然ながら火嘉だけは血しぶき一つ浴びていない。
彼はマナーモードにしていたらしい携帯を取り出した。

「戸部からメールだ。一旦帰って来い、とさ」

代表の名に、そうか、と加須原は言いながらゆっくりと顔を上げた。

「ならば、先ほど言っていた件についても、報告しなければならんな」
「だー!それだけはやめれ!戸部にだけは!」

火嘉が大げさに騒ぎ立てる。
加須原は腕組みをした。

「しかし、重大な過失行為だ。黙認するわけには…」
「ちくったら、お前の初恋の女を戸部にばらす!」

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