Dandelion 20
「わざとらしいぞ。お前が気付かなかったわけがないだろう、火嘉」
彼は続けた。
「うちの部や、敵対セクトの連中を知っているのはかまわん。だが、真戒派の下位組織を一人残らず把握しているということはない」
「そーかね」
「だからと言って、中央に接触できるほどの立場とまでは思わんが」
揶揄するような戸部の口調に、火嘉は気のないふうを装って軽く頷いた。
「で?」
意見など求めてくるのは戸部のスタイルではない。彼がすでに心を決めていることは明らかだった。火嘉が促すと、戸部はあっさりといった。
「今津と縞剣会は余計だな」
ああ、と火嘉は低く息をもらした。出された名に納得したのだ。
「狂犬なら間に合ってる。…まして他人の犬ではな」
「ま、直下に二匹もいりゃあ、十分だわな」
火嘉が肩をすくめると、戸部は小さく笑った。
「で、誰にやらせる」
「狂犬の相手は、狂犬にさせよう」
「どっちに?」
ふむ、と戸部は顎に手をやった。
「神崎にはまだ荷が重いんじゃないか?」
「まあ、そうだけど」
「…そう見くびったものでもないぞ」
黙って二人の会話に耳を傾けていた加須原が、不意に口をはさんだ。
「幾島流の剣は、あいつには相性がいいだろう」
それきり再び黙り込んだ加須原に戸部は、
「お前がそう言うなら、やらせてみてもいいが…」
そう呟きながら、思案げに顎をさする。
そのとき、会議室のドアが開かれ、神崎たち三人が入室した。
自分の名が出されていることに神崎は気付いていた。
さぐるように戸部を見ると、彼はふと思いついたようにいった。
「禾女のガス抜きにちょうどいい相手かと思ったんだがな」
禾女が黙ったまま顔を上げる。
「禾女を遣るなら、海士田もだろう。もう一人二人つけたいところだが」
「仕事っすか、代表?」
二年の海士田岐士雄が、神崎に続いて入室する。彼は戸部の言葉に嬉々として口をはさんだ。
「禾女と海士田と…神崎…か?」
そうつぶやく火嘉に、戸部が苦笑した。
「禾女と神崎を組ませるほど、俺はバカじゃないよ」
「どういう意味ですか」
どう聞いても良い意味にはとれない。神崎はすかさず聞きとがめた。戸部はからかう風でもなく、真面目な顔でこういった。
「狂犬は、チームに一人で十分だ」
「?」
怪訝に眉をひそめた神崎の後頭部を、火嘉がはたく。
「お前のことだ、お前の」
「俺が?狂犬?」
はたかれた頭をおさえながら、彼は聞き返した。
禾女のことを火嘉や戸部が、やれ鉄砲玉だの狂犬だのと呼んでいるのは知っていた。彼自身は禾女と組んだことがないが、よほど仕事が荒っぽいのだろう。そう、想像していたのだ。
二人の言いぐさは、彼には想定外だった。
「俺のどこが狂犬…」
「こいつらを組ませるのは反対だね。歯止めをかけるやつがいないだろう。禾女一人でも、海士田の手にゃ余ってる」