Dandelion 19
「誤解するなよ、戸部。あれこれ言ってはいるが、僕は君の案に賛成だ」
代表者たちは驚きを隠さず今津を注視した。
彼は臆することなく苦笑して続けた。
「この通り、うちは血の気の多い連中が多くてね。言われるまま、月に幾度もない任務のために平和な学生生活を送るのは、そろそろ我慢がならなくなってきたところなんだ。僕は君の案に乗りたいと思う。心からね」
だからこそ。
今津は強調した。
「だからこそ、慎重になりたい。これは重大な問題だ。行動するのはいい…だが、はっきりと言っておくが、縞剣会に、抗命の意思は無い」
戸部は大きく頷いた。
「もちろん。俺の提案は純粋に、党の意思に基づくものだ」
「君の権限を、僕は信じたい。行動こそ僕らの望むところだからだ」
「信じてくれと言う他ないな」
「そうかな?僕は、本当は君は、権限を証明しうるのだと思っているよ」
今津の目がちらりと光った。
「…君には噂があったな、戸部?」
「噂というと?」
「中央の軍事参議の、君が直下であるという噂だ。そのために、君の公英会にはある特権が認められているとか。特権の内容までは知らないがね」
彼はさぐるように戸部を見た。
「…それが事実がどうかを、明かす権限は俺にはない」
戸部は肯定ととれる微妙な言い回しをした。
「ただ一つ。証明できるとしたら、事が始まってからになるだろうな。君らに制止命令は来ない。制止のないことをもって、俺の権限は証明される。
わかるだろう?抗命者をつぶすのは、いとも簡単なことだ。学内にも我々を監視する者はいる。
言ってしまえば、この会議を開催できた事実が、監視役の黙認を得ている証明なんだ」
それも信じるに足る根拠とは言えないだろう。彼は声音をわずかにひそめた。
「だが約束しよう。俺は決して、抗命行動に君らを導くものではない。俺は真戒主義を信じている。俺と公英会の行動は、その実現のためにのみある」
静かに戸部は言い切った。
そして言いたいことは終わったとばかりに、背後の火嘉に合図する。彼はレジュメを配り始めた。
代表者たちが、彼の言葉に傾き始めているのが、戸部にはわかっていた。
だが、彼らの思案を戸部はあえて遮るようにこう言った。
「では、本来の議題に入ろう。
九月の学園祭での合同企画について…手元の資料は直近三年間の企画例だ。何か意見のある者は?」
***
「もうひと押しかな」
戸部は楽しげにつぶやいた。
「少し危機感を持たせてやろう。火嘉、誰がいいと思う」
「俺に聞くなよ。もう決めてんだろ」
「意見が聞きたかったんだがな」
火嘉は肩をすくめた。だが、戸部の戯れに付き合うように、何も考えず適当な答えを返す。
「高猿じゃねえの?えらくピリピリしてたじゃん」
「高猿響子はまだ使える。あれは単独の情報分析エージェントだ。おそらく中央の情報部門にもつながっている」
「…へえ?」
片眉を上げて感心して見せた火嘉に、戸部は口の端を上げた。