PiPi's World 投稿小説

Dandelion
その他リレー小説 - アクション

の最初へ
 11
 13
の最後へ

Dandelion 13

せっかくの穏やかな空気が、すっかり乱されてしまった。
彼は席に戻ると、火嘉のいる間ほとんど無言を通した蔓木に目を遣った。

「あいつ、苦手?」
「あいつって、火嘉先輩のこと?」

蔓木は不思議そうな顔をした。

「いやあいつ、女子にはマメだし、人気あんのかなと思ってたから」
「人気は知らないけど、評判はいいみたいよ。成績良いし、背高くて優しいって」
「じゃあ」
「私は…どうかな。火嘉先輩ってちょっと怖い感じがする…そんなことない?」

神崎は少し驚いた。

「確かに変態っぽいけど、怖いか?」
「変態って、言い過ぎよ」

蔓木が否定せずに苦笑する。

「そういうんじゃなくて、もっとこう普通に…ときどき、怖い顔するから」
「…そうか?」

彼は肯定も否定もできなかった。
彼女の見た『怖い顔』は、飄々とした態度を崩さないあの男の持つもう一つの顔のことなのかもしれない。
きっと持っているに違いなく、また神崎がそうするように人目から隠しているのであろう、確信的殺人者としての。
彼女は本能的に、それに怯懦を覚えたのだ。

「ねえ、神崎くん」
「ん?」
「朝の話、覚えてる?真戒派が制圧されたって」
「覚えてるけど」

世間話をする口調に少しだけ、不安な響きが滲んだ。

「私たちには、関係ないことよね?」

神崎は目を見開いた。

「何も、変わらないんだよね」

どう答えていいかわからなかった。

彼にとっては変わる。
明日から、おそらく全てが変わってしまう。
もしかしたら、真戒派下部組織として弾圧の対象になるのかもしれない。逃走し、地下に潜る生活が始まるのかもしれない。
戸部の力強い言葉とは裏腹に、先行きは不明瞭だった。少なくとも神崎の目にはそうだ。

だがおそらく学校は、表向き、何一つ変わらないだろう。
封改派は独裁的な論理を持っているが、あくまで民主的に選ばれた政権であり、決して暴君ではない。
そうである以上、個人の思想には自由が認められるし、人権を冒すことはできないのだ。
言ってしまえば、封改派は民衆の敵ではない。

教育施設での戦闘行為の禁止を主とする、学園自治条例を定めたのも封改派だった。
学校組織は基本的に、政治活動の禁止と学外に対する非武装を条件に、運営と自衛に自治権を認められる。
政府および自治体による干渉は許されない。そこは小さな自治都市だった。
彼らは封改派の決めた法によって隠され、守られているのだ。

現政権は長く続き、上層において頽廃と腐敗の様相を持ち始めてはいたが、民衆に対する強制や目立つ失政は、表向きはなかった。その中央委員会は、理性的な統制を保っている。

ただ、独自の歴史観から導かれる保守性が、真戒派の掲げる革新論を徹底的に否定する。両派は並び立つことができない。

SNSでこの小説を紹介

アクションの他のリレー小説

こちらから小説を探す