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Dandelion
その他リレー小説 - アクション

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Dandelion 12

ガタ、と反射的に立ち上がって身構えた神崎だったが、スイッチを入れた人物を見て脱力してしまった。

「神崎遅いぞ。もう部室閉めて…あれ」

火嘉だった。
部室に置いてきた神崎の荷物と、銀の園芸用遮光ネットを巻いて肩にかついでいる。

「蔓木、まだいたの?」
「…知り合い?」

火嘉はつかつかと歩み寄ると、蔓木の前で立ち止まった。
なれなれしい口調に、思わず警戒心丸出しの態度をとってしまった神崎に、蔓木は小声で答えた。

「保健委員会の先輩」
「先輩あんた…保健委員だったんですか?」

神崎はまじまじと火嘉を見た。
長身、眼鏡、言動に合わぬ、理系らしいかたい顔つき。
保健委員…外見的に、軽く犯罪のにおいがする。偏見に満ちた彼の視線に、火嘉が顔をしかめる。

「何か悪いか」
「悪かないですけど」
「わざわざ荷物持ってきてやった先輩に向かって、何て態度だ」
「先輩のやることじゃないですよ」
「知るか。戸部が持ってけっつったんだ。表に置きっぱなしで、盗まれたら困るだろ」

彼は顎で遮光ネットの束を示した。

「?何でこんなもん持って帰れって?」
「カーテン代わりに窓にはっとけ。急だったから、まだ部屋の準備ができてねえんだと」

火嘉が舌打ちしながらそう説明した。
なぜそんな態度をとられるのかわからないまま、神崎はネットを受け取った。その重みで、ようやく意味に気付いた。
ネットには、どうやら神崎の刀がくるまれているのだ。

他になかったのか、と神崎は心底情けなくなった。
学内で一般生徒が、ということはめったにないが、刀を持ち歩くこと自体は珍しくない。
生徒会自治会や風紀委員は、校内自治のために腰に差して威嚇としている。
真剣所持は、まだ内戦の気運高く学生運動の盛んだった時期のなごりで、未成年にも事情によっては許可されていた。
むろん、刃を抜いて人を殺傷すれば犯罪行為だ。
許可の申請事由は厳密でなくてはならない。個人ではなく自治会や委員会など、目的の明らかな団体単位でなければ、ほぼ認可は受けられない。
園芸部が持っていたらおかしいのだ。それはわかるのだが。

「文句言わずに持って帰れ」

普段は部室に格納しておけばいいが、今日は持ち帰らなければならない。…使ったから、手入れをしなければ。
銀色に輝く遮光ネットを、彼は黙して受け取った。



蔓木を手伝ってから入寮する旨を告げると、火嘉は教室の隅に彼を引きずった。
何事かと目を丸くした彼に、火嘉は声をひそめてこう言った。

「お前、神崎よ、いくらなんでもあの娘は無理だろ。さすがに高望みすぎ…」
「何言ってんだあんた」

神崎は不審者を見る目を火嘉に向けた。

「いいからもう帰れよ」
「先輩に向かって、何その口の利き方、」
「荷物どうも。ありがとうございました!」

神崎は口調を改めて、火嘉の無駄口を遮った。
火嘉は不満げにぶつぶつと文句を言いながら退場した。



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