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新八剣伝
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新八剣伝 6

登校時間。間抜けなことだが、俺が現実的な意味でも困った事態に陥っていることに再び気がついたのはこの時である。

「おー、ヒーロー君じゃん」
ニヤニヤと口の端をひん曲げて現れたのは、西村をいじめていたクラスメイト三人組だった。
…やれやれ、なんでこいつらいつも一緒にいるんだろうな。
「今日もお仕事頑張ってくださいねー」
「途中で降りたりすんじゃねぇ…よっ!」
そう言って俺の肩を強く打つと、衝撃に立ちすくむ俺を残し、粗野な笑い声をたてて去っていった。



「なぁ…」
『私か?』
玉が応える。
「俺は選ばれたんだよな」
『ああ』
「何で選ばれたんだ?」
『……』
答えられないのは、どちらの意味なのか。
曇り空に、ただ沈黙が重く響く。暗い気持ちは、まだまだ晴れそうもない。


M市立第一中学校。俺が通う中学校だ。たいていの人は『イッチュー』と呼ぶ、これといった特徴のない学校である。あえて言うなら、数十年取り壊されずに残っている旧校舎の存在くらいか。
昨今珍しくなった木造特有の不気味じみた風格を持つその建物は、心霊的な観光スポットとして地域の人間に知られている。夏休みに肝試しに来る連中は小学生のガキから老人会のジジババまで、まさに老若男女、後をたたない。わざわざ電車を使ってくるものもいるほどだ。
俺らが入学する前には既に新校舎が建てられお役御免になったはずなのだが、事実生徒が授業で使うことはないものの、卒業生や地域の人間の強い要望によって今でもそこに姿を残している。
二階建てにだいたい十ちょっとの教室があって、机も椅子も当時のまま残されている。トイレ、というよりもまさしく便所といった風貌のそこは、立ち入りは許されているものの、水が止まっているために使用禁止である。それゆえトイレの花子さんだけは新校舎に移っているなどという噂が、冗談混じりにささやかれていたりする。

で、えー…それと、あとほかに何か…
『おい』
あ、卒業生にたしか国会議員の先生がいるとかいないとか…………。
『説明はありがたいが』
まあ何してるかわからんってことは、ロクなことしてないだろうけど…。


『はやく教室に入ったらどうだ』
「わ、わかってるよ」
気づけば、我が教室は目の前。一つ深呼吸すると、覚悟を決めた。
逃げていられるか。怯えて追われて逃げるくらいなら、進んで挑んで華々しく散ってしまおう。
「悲しいかな、それが男の生きざまだからな」
『足がすすんでないぞ…』
「今行くとこだ!」教室前を行き交う人が何人かこっちを向いた。今更だが、どうやら俺以外(それと刹那のような別世界人以外か?)には、こいつの声は聞こえないようだ。


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