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新八剣伝
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新八剣伝 5



「おい真一、いつまで寝ているつもりだ」
朝は来る、この星にに住むモノに。善人悪人、天才凡人、働き者怠け者に公平に訪れる。それは社会的に生きる人々の数少ない平等の一つ。
人々の思いなんて一つも受け入れず、淡々と、ただ朝はやってくる。
「いい加減起きたらどうなんだ」
しかし…


「……ま、まだ五時だろうが…」
その基準は人それぞれだ。
「『まだ』とは何だ、日が見えてからどれほど時が経っていると思っている。さあいい加減起きろ」
昨晩は早く寝ろと言い、今は早く起きろと言う。随分と勝手してくれるじゃないか。

「祖先が送り込んだ未来の猫型教育ロボット…じゃないんだよな……?」
「何の話をしているのだ?」
眠いので説明してやらない。



意外なほど『玉』しつこく急かすので、しぶしぶ俺はその日の活動を開始することにした。起きてしまえば、眠かったのがずっと昔のことのように思えるから不思議だ。
特に料理ができるわけでもないので、適当に焼いたトーストを軽く二枚ほど平らげると少し早いが早朝ランニングに向かった。
「朝は無精だったが、なかなか関心だな」
「こう見えても一応陸上部なんで……つってもわからんのか、部活とか?」
「いや、データには入っているぞ。先発隊のおかげでこの世界の知識はそれなりにあるつもりだ」
見えないが、なんとなくわずかに鼻が高く、背をそらしている姿が目に浮かんだ。
なら日本人の平均起床時間くらい調べておけよ…都合のいい設定。


軽く準備体操をすませると、近くの公園までランニング。着いてからは下半身を中心としたトレーニングで汗を流した。
暑い盛りとはいえ、まだまだ涼しい時間帯。誰もいない公園で一人汗を流すのは心地よかった。しばらくサボり気味だったけど、夏休み中はまた始めようかな…?




「ふぅ」
一息つくと、公園の外の道路を人が通るのが見えた。
「あいつは…」
西村。クラスでいじめにあっていた、あのクラスメイトだ。

「西村っ!」
思わず声をかける。昨日の一件があったからか、俺自身があいつに親しみのようなものを感じていることに、今気づいた。

…だが当の本人は気づかない。
俺が戸惑っていると、西村の姿は消えてしまった。

「なんだよ…ったく」
出鼻を挫かれるようにして爽やかな気分が湿るとともに、いつのまにか空にも雲がかかり始めていた。雨が降るかもしれない。
「帰るか」




西村と友達気分になっていたのなら、なぜ俺はこの時、『朝早く出かけた西村について考えなかった』のだろうか。
きっと俺がいじめられっ子の西村を、心のどこかで嘲っていたからだろう。おそらくは人を舐める気持ちが、他人を理解しようとする優しさを失わせるのだ。

そのことに気づくのは、すべてが取り返しのつかないところに行ってしまった後だった。



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