TRADEAD 10
エスパーだね。先輩。
声以外は考えなかったのだろうか。
「今日のうちには治ると思うけど…」
そうか。安心した。
「夢は見れた?」
頷く。
「その…どうだった…?」
どう伝えていいのかわからない。
首を傾げてみた。
「あっ…喋れないんだよね。ごめんなさい。」
あぁ、そういう意味ではないんだが。
(明日話します)
掠れ声でなんとかそれだけ伝えた。
その後は弁当を食べ、片桐先輩に軽く会釈をして屋上を後にした。
しかしゴボウを取られる心配をせずに、ゆっくり弁当を食べられるのは幸せだ。
これからも屋上で昼食をとり続けるべきだと思う。
午後も周囲の干渉は無かった。進んで俺に声を掛けてくる多いとは言えない人間の一人、諒平があの状態でなければ、ここまで完全に無視される事も無かっただろう。
帰宅、夕食、入浴…もう寝る時間だ。何故家に帰ってからの時間は斯くも短く感じるのか。
今夜も俺はあの夢を見るだろう。また少し不安を感じる。
戻る方法が辛く、難しい事だとどうしようか。無理して元の世界に戻る事なく、こっちで気楽に過ごそうか。
…あ、俺も諒平とあまり変わりが無いな…
案の定、夢を見た。
屋上で片桐先輩を見つける。
しばらくして、飛び降りようとする先輩を止めようと走りだす。
そこまでは昨日と同じ夢だった。
だが、そのあと。
<きちゃだめ…、高見くん…>
ふっ、と"俺"の足が止まった。
間違いない。
片桐先輩の声だ。
<私がここで死ねば、高見君は助かる…それが一番いいの…>
昨日は完全に俺の意思を無視した行動を"俺"はしていたが、片桐先輩の声で権利が自分に移ったようだ。
助けたい。
だが、思うように体が動かない…
このままでは、片桐先輩が死んでしまう…
(いいじゃないか、別に…)
何!?そんな事考えるな俺!…駄目だ。意識をコントロールできない―
(死にたい人間を助けて死ぬなんて馬鹿げている)
(人が死ぬのを黙って見ている事等できん。苦しむのは自分だ)
(俺だって死ぬのは恐い!)
(片桐先輩には生きていて欲しい)
(二人共助かる事はできないのか?)
(先輩が飛び降りる!もう間に合わない…)
(何ホッとしてんだ!)
(助けろ!!!!!)
(嫌だ!!!!!)
苦しい!!何故俺がこんな二択を迫られねばならんのだ!