フリークスバスター 7
リーフォルの左手に氷の刀が作られる。そして剣は二刀となって苛烈と怜悧を増した。斬撃が乱舞し、棒の間を潜り抜けるようにして剃髪の男の身体を切り刻む。
「舐めんなよ、糞ガキがっ!!」
剃髪の男は全身の切り傷から血を零しながら大きく棒を回転させる。そしてそのまま横薙ぎにして払った。大振りの一撃、だが範囲はでかい。防禦しかないと双刀を交叉させるようにして防禦したが、そこに含まれている剄が桁外れだった。腕から肩へと走る剄の衝撃が両腕の骨をへし折り、肩の関節を砕いた。
「グあッ!っ!!」
両肩の激痛を剄で鎮痛させながら右足に咒を走らせる。靴の先端に氷の刃を作り、その切っ先を剃髪の男の鳩尾へと打ち込む。咄嗟に交わされ刃は脇腹になるが深々と突き刺さった刃は肉を抉る感触を伝えた。二人の距離が放たれ、同時に地面に膝をつける。
先に立ち上がったのはリーフォル。剃髪の男は脇腹の傷を手で押さえて睨みつけるばかり。リーフォルとしても両腕どころか肩までの感覚がなく呼吸する度に目の前が真っ赤に染まりそうな激痛が走り続けている。それでも殺意だけが爛々と身を焦がしていた。
呼吸が苦しく剄も咒も紡げない為、側に降りている剣を蹴っ飛ばして柄を口で咥える。顎が痛むが腕の痛みほどじゃない。そのまま剃髪の男の首筋に突き立てる、と思った瞬間、リーフォルは予想外の方向から吹き飛ばされ地面に転がった。しかも肩から落ちたことに激痛で身悶える。
「な、何しやがる・・・・っ、化物」
「助けてやったのが感謝されることはあっても文句を言われる筋合いはないな」
麒麟の少女が鼻で笑うと同時に目の前を切り裂く一条の烈火。背後にあった建物の側壁を一瞬で融解させてしまうほどの高熱に皮膚がジリジリと焼かれた。防いだのは少女の廻りで踊る雷光。まるで主を守る古の精霊のように雷は炎の余波を完璧に弾き返す。そして彼女は笑った。
「久しぶり、というのは少しおかしいが、まぁひさしいのぅ」
火鼠、と。
純白の衣を纏った顎鬚が豊かな男を見て彼女は笑う。
男も剃刀のような鋭い顔で笑った。その顔を見ただけでリーフォルの全身に恐怖が走る。彼の右手が持ち上げられ、炎が唸り声をあげる。
「媛様。遅くはありませんから今から投降していただけませんか?」