暗殺少女 9
「お、悪霊発見」
儚に渡された双眼鏡のような物を首からぶら下げて、幽は呟いた。
もちろん、その悪霊はあの色情霊である。
「……仕事だね」
「いっちょやりますか!」
そう言って二つの影は、夜の暗闇へと舞い降りた。
「ん!?」
すたんっ、と銀次の前に降り立ったのは儚。
「…お迎えに上がりました」
「ほぉ……どうやら俺ぁ女に恵まれてるようだな」
この状況にもかかわらず、にやりと笑う銀次に、思わず儚は後ずさる。
「……!? きゃあ!!」
儚の一瞬の隙をついて、銀次は儚の背後に素早く回りこむ。
「最近は、幼いやつにも興味を持っててなあ…?」
銀次は、蛇のようなねっとりとした口調で儚の身体をまさぐろうとする。
「加齢臭酷いんだよ、エロオヤジ」
しかしその刹那、蒼い刀が銀次の右腕を切り落としていた。
「っ…がぁ!!」
思わず銀次がよろめいた隙に、儚はその腕から逃げ出す。
「儚、なんで仕留めなかった?」
「……素質が見えて…びっくりしちゃって……」
「……。こいつに?」
「……うん」
口をあんぐりと空け、立ち尽くす幽。
「…全く奇想天外だね」
「腕! 腕を返せ! このガキが!」
まだやりたいことがたくさんある。
タイプの女も見つけていない。
こんな所で消えるわけにはいかない。
ましてやこんな、年端もいかないガキに――
「年上に対する言葉がなってない」
「…っ…あ」
銀次の奇襲をひらりと避け、胸の真ん中を刀で貫かれる。
「これは女性全員の分だよ」
消えかかる銀次の肉体を、さらに上から縦に切る。
「ぐああっ!」
断末魔にも似た悲鳴をあげ、上野銀次は跡形も無く消え去っていった。
少しばかりの未練を遺して。
「…素質、あったのに…」
少しはだけた姿で、儚は呟く。
「儚、あんなのが死神にでもなってほしいか?」
刀を仕舞い、呆れた口調で幽は儚に問い質す。
「……ぜんぜん」
あいつがもし死神でもなったら……いや、想像はしたくない。
同じく儚も、苦笑しながら首を横に振った。