暗殺少女 8
第三話『 欲 』
「しかしまぁ、最近の霊ってのはバリエーション豊富だねぇ」
目下に広がる街を見下ろしながら、退屈そうに幽は呟いた。
「……へ?」
「いや、景の時のヤツとか、逃げ足の速い奴は流石に厄介だろうし……」
「あ……確かに」
隣にいる儚は、記憶を搾り出すようにして答えた。
ぷかぷかと浮いている幽に対して、儚は一生懸命、幽霊を捜しているようにも見える。
「そんな熱心にならなくても、ちょっとは休みなよ、儚」
もともと病弱そうな顔つきをしているのに、さらに幾分顔色が悪くなっているように見える儚を、幽は素直に心配していた。
「……仕事だから」
ぼそっ、と答える。
「いやあ、それだとあたしが怠け者みたいに」
「じゃあ……バトンタッチ」
「うぇ〜」
今日も一日、月明かりの元で儚と幽は霊捜しに尽力するのだった。
同時刻
「きゃあっ!!」
とある街角の銭湯で、若い女性の叫び声が響く。
「へっ、役得役得!!」
白い湯気が立ち上る浴場から飛び出して来たのは、上野銀次(65)であった。
男なら誰しもが思ったことがあるだろう、『もし死んだら裸を覗きに行きたい』と。
だが、ほとんどの健全な男子は、死ぬ直前にまでそんな妄想をしている輩はいないであろう。ところが彼は、下着泥棒未遂でマンションから落下するまで、ずーっと色欲の虜だったのである。
それは、死してなお、変わりなく。
「これは死んでラッキーだったんじゃねぇのか? へっ!」
幽霊とはいえ、65才とは思えぬ体力を見せる。もう彼に理性は無く、動かすのは色欲、情欲のみである。確実に野性化を遂げていた。
自分のあられもない姿を見られた上、まして犯人が幽霊でおまけに恐怖まで与えられる。
女性にとっては、たちの悪いことこの上ない野郎である。