暗殺少女 6
成程。その精製が上手くいかなかったら“生まれ変わり”とかになるのか。良かった良かった。俺もそうなればいいんだ。
……良くねえよ。確率恐ろしく低いよ。
「断る、魂は渡さん、と言ったら?」
「私はおとなしく引き下がる。ただ……」
ただ、何だろう。まだ喜べん。
「校倉敏明としての思考能力は次第に衰える。一月もすれば、ほぼ感情のみで行動する悪霊に成り下がるだろう。そうなれば我々は容赦無く討つ……もう既に自覚症状はある筈だ」
どちらにせよ俺は消滅するのか?そんなの嫌だ。
「うう……」
「悪霊と化した者の魂は再利用できん。おとなしく魂を差し出し、他者の役に立つか。それとも悪霊と化し魂を無駄にするか。さあ選べ!」
俺は違う。俺は悪霊になんかならない。
「い、嫌だ!!」
「景よ、仕事だ」
第二話『校倉敏明 後編』
「ああ……」
死神の要求を拒否してから一週間。敏明は悪霊になるのが怖くて仕方が無かった。
しかし皮肉な事に、行動は既に悪霊そのものとなっていた。
死神がまた来るのではないかという恐怖に、隠れる場所が無いと焦っては周囲に不運を撒き散らし、逃走速度を上げる為に車に乗り込み、事故を起こさせたりしていたのだ。
善悪の判断がつかなくなってきている。もうすぐ何を恐れているのかも忘れてしまうだろう。
「御迎えに上がりました」「!!!」
聞き覚えのあるフレーズに飛び上がる一体の霊。前とは少し意味合いが違うのだが。
「あ……がっ……」
気付いた時にはもう遅い。胸の真ん中を刀で貫かれていた。
「熱……い」
肉体を抜け出してから殆ど何も感じなかった霊体。それが熱を感じている。彼は直感的に魂を貫かれたと悟った。
「見逃してくれ……」
「……やはりまだ思考能力は残っていたか。悪いが、ここいらは今現在死神過剰で、お前みたいに“若い”霊も攻撃対象になる。許せ」
「俺……死にたくない……」
さっきまで無機質だった景の表情が、和らぎ優しいものになった。そう、まるで慈母の様な――
「貴方はもう死んでるんですよ」
シュッ
「あ あ あ」
霧が散るかの如く魂は消えた。
自分の全てが消えていく。
虚無に呑み込まれていく。
絶対的消滅感。そしてそれすらの消滅。敏明は残った思考能力で、本当の死とはこんなものか、と思った。
「前は一瞬だったからなぁ」
それが最期の言葉だった。