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暗殺少女
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暗殺少女 21

捕捉は難しくないと、景は考えていた。いつもやっていることだ。
だが、彼女は、幾度も彼に逃げられた。

彼は街中をさまよった。
砂浜で海を眺め、学校の校庭にたたずみ、高級レストランで食事のまね事をする。今日はこの公園だ。

彼は、とても静かに動いていた。
とても理性的に、周囲に影響を及ぼさぬよう細心の注意を払っているのだろう。ジャッジメンターの探知が外れるほど。
加えて、次にどこに向かうかわからない。
彼の訪問先は、景の目にはとても気まぐれに見えた。
同じ場所に二度と現れない。遠方に足をのばしたかと思うと、ごく近くにいることもある。脈絡がない。
従って、移動中は捕捉できない。
長く滞在することで、ようやく現在地が検知できる。しかしそうして急行すると、もうそこにはいない。
後手後手に回っていた。




逢坂一の遺影を、景は見つめた。
真新しい花と、一筋の煙。身重の夫人が放心した顔で座っている。

逢坂一捕捉の糸口を掴みに、景は彼の家を訪れていた。
手がかりは見えている。これはもう一つのパターンだ。
追体験。
自分か、もしくは身近な誰かの、人生を追いかけるように記憶の場所を訪れる。

面倒なことだった。景はこの作業があまり好きではない。対象の生涯を調査し、思考推移を推測するようなことは。


彼が死の床で、何を見たいと願ったか。体験したいと祈ったか。
死とも苦痛とも無縁だった時代の、彼の命の輝いた場所。


そんなもの知るか。
そう景は思った。彼女たちにとって、これほど知らなくていい情報はない。
黙々と足を使って追いかける方がよほど性に合っている。




逢坂一が『そこ』に現れたとき、景はわずかに落胆を覚えた。
景の追跡を察して、パターン行動をやめるのではないか、そうどこかで危惧し…期待していたのだ。

「お迎えに上がりました」

「来たのか」

彼は、先回りされていたことに驚きも見せなかった。

「ここが最後…なんだろう」
「へえ。わかるのか」

逢坂一は笑った。
意識の混濁の兆候は見られない。だが、油断はできない。なかには、隠す知恵のある者もいる。

「正直に言うと、ここが最後なのは覚えているんだけど…何の最後なのか、思い出せない」
「長く留まりすぎるとそうなる。最初にそう告げられたはずだ」
「そうだったっけ?思い出せない」

彼は首をかしげる。そして、す、と彼女に背を向けた。

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