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暗殺少女
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暗殺少女 19

 
「幽」
「何でしょう」
「あれは何だ?」
「多分……死神に成り損なった奴……かな?」
「斬ってもいいのか」
「あたしに聞くなよ……」

「斬りなさい」

振り返ると、タキシードに身を包んだ痩せた中年紳士風の死神が居た。

「よし行くぞ幽」
「何であたしまで……」

意気込み新たに大猫に向き直る。だが包囲の輪は足りている様だ。そして敵に隙が無い。
まずは様子見。それが景の結論だった。

「幽、奴に村正での攻撃は通用するか?」
「多分。死神の体は魂で出来てるらしいし、あれもきっと……」
 
と、ずっと威嚇ばかりしていた敵が頭を下げた。
走る緊張。それも遠くの死神には届かないが。
ジャッジメンターに戦いの指示を出しているのは、近くに居て状況が見える死神だけだ。
しかし緊張を撒き散らした敵の行動は攻撃の為では無かった。
食う為であった。
足元に散らばる黒いもやもやを。
隙ありと一斉に飛び掛かるジャッジメンター達。各々の武器が大猫の体を斬り、打ち、突いた。
全員が確かな手応えを感じ、一旦飛び退く。
そして自らの付けた傷が深い事を確認した。
ところがその傷は塞がっていくのだ。
広がる動揺。
敵が更に黒いもやもやを口にすると、傷は完全に塞がった。

「景……なんかあいつ大きくなってないか?」

景は黒いもやもやの正体に気付いた。
次の瞬間、白と黒の弾丸が敵に斬り掛かった。

「これ以上食わせるな!手がつけられなくなるぞ!己の命よりこいつの妨害を優先させろ!」

その声にその場の空気が変わる。数秒置いて死神達が口々に同じ事を言った。

爪が、牙が、景を襲う。しかしいずれも紙一重で当たらない。
いざ懐に潜り込んでみれば攻撃は大振りで軌道が読み易い。
景は首を狙い始めた。
が、突然強烈なネコパンチが景を十数メートル吹き飛ばした。
皮肉な事に、他のジャッジメンターの攻撃による痛みで軌道が変わり、避け切れなかったのである。

「……ぅ」

もう声が出せない。怪我の状況を確認する間も無く、景の意識はふつりと切れた。




「うう……」
「目が覚めたか」
「なっ!」

景は飛び起きた。
謎の騎士が馬上から自分を見下ろしている。混乱する状況ではないか。

「そこまで驚く事も無いだろう」

……当然自分の死神だった訳だが。景はやや赤面した。
「まあ褒めておこう。あの状況で、暗殺者であるそなたがよくあそこまで戦えたものだ、と一部始終を見ていた死神が言っていたぞ」

景は中年紳士風の死神を思い浮かべた。

「状況を知りたそうな顔だな」
「いえ、状況は知りたいですが特にそう思っていた訳では」
「ははは、素直だな。よし教えよう。例の大猫は成り損ないだ。成り損ないというのは……」
「知っています」
「そうか。被害は死神一体、ジャッジメンター二人。これだけが死んだ……そんな顔をするな、敵は始末できたのだから」
「……はい」

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