暗殺少女 18
ジャッジメンター同士が一時的に組んで行動する事自体は珍しくない。だが幽達の様に長い間行動を共にする例は稀である。
以上の事から、景には幽と儚は常に一緒にいるという強い印象があった。
「ああ、儚なら丁度このタイミングで刀の魂使い切ったんで、武器の交換するらしいぜ。あたしもそろそろ刀飽きてきたし他のがいいなあ……景みたくこれに思い入れも無いしさ」
ジャッジメンターが霊の魂にダメージを与える理屈は魂の相殺である。何かしらに魂を詰め、使用者の思念の力と相まって効果が発動する。
その点に於いて死神の攻撃力といったものは凡そゼロである。それは死神の思念の力という物が非常に弱いからで(死神が“宇宙”の為に働く奴隷である事に通じる)、嘘が吐けないのもこの事に起因する。
「そうか、私はずっとこいつを使うつもりだ」
いとおしそうな眼差しが、重々しい輝きを湛える刀身に向けられる。
「これもまだ補充無しで百体は斬れるんだけどね」
……間ができた。
お互い話す事も無くなったので、自然と死神達の話に耳を傾ける事になった。
「……ならうちの……は……」
「……にももう少し人手を増やした方が……」
「この辺りはまだ多過ぎる……」
どうやら死神の配分について相談しているらしい。
死神及びジャッジメンターの数は時間の経過と共に偏りが出るので、定期的にこうした集まりが必要な訳だ。
「しっかしまあ、付き合わされるあたし等の身にもなって欲しいよ。ここの退屈さときたら」
「ふふ、まあ確かに。毎度来たいとは思わないな」
「それよそれ!景の死神は寛容と言うかいい加減と言うか……羨ましい」
景は隣の花は赤いものだと言おうとした。
しかし言わなかった。
何故か。
他の事に気を取られたからである。
他の事とは何か。
不意にその場を覆い尽くした異様な気配である。
周囲を見回す景。気付いた者は全体の一割といった所か。幽は怪訝な顔をしている
ジャッジメンターの一人が警戒の声を上げた。
ここで幽も異変に気付く。
「おい、景……」
先程と同じと思しきジャッジメンターが、また声を上げる。
但し今回は悲鳴だ。
「死神の指示を……」
「あっちだ!」
幽の手を引っ張り声の方向へと走り出す。
景を風と例えるならば、死神やジャッジメンター、その他の者共は木々であろう。
死神の指示を待ち動かぬジャッジメンター、動揺もせず声のした方向を見つめるだけの死神。今の様な緊急事態に対応できる者は、ここには殆どいなかった。
「あれか」
現場に着き、幽の手が漸く解放された。
「ったく、勝手な行動すんのはいいけどあたしを巻き込むな、よ……な……」
そこに居たのは巨大な黒猫。自らを取り囲むジャッジメンター達を威嚇している。その足元には一人のジャッジメンターと何やら黒くもやもやした物が転がっていた。