PiPi's World 投稿小説

暗殺少女
その他リレー小説 - ファンタジー

の最初へ
 14
 16
の最後へ

暗殺少女 16

秋俊は生きる。生きられるんだ。自分が死んだことなどどうでもよかった。秋俊は死なない。それだけで十分だ。秋俊の身代わりに死ぬのが自分なら、俊晴は喜んで魂でもなんでも捧げられた。
「よかった……」
もう一度、涙が伝った。
「さようなら……」
儚は顔を伏せたまま、そう呟くと、刀を振り上げた。そのまま居合の要領で間合いを詰めると、そのときには俊晴の魂は、二つに裂かれていた。ゆらりと輪郭が歪み、俊晴の存在が色を失う。そして彼は、霧のように掻き消え、消滅した。
消滅する、そのとき。自分が消えるにも関わらず彼が安堵の微笑みを浮かべていたことに、儚は気付いていた。


「……ごめんなさい……」
だれにともなく、儚は言う。その言葉を俊晴に送ったのか、秋俊に送ったのかは儚自身にもよくわからなかった。


「……うっ……ぐぁ……」
呻き声とともに、ビーッという警告音が突然室内に鳴り響いて、儚はそちらをむいた。その音はベッドに横たわる秋俊の傍らにある、大きな機械が発している。
心電図は乱れ、意識を失っている秋俊が、苦しげに顔を歪ませていた。
「秋俊くん!」
看護師はすぐに飛び込んできた。当然のことながら儚には気付かない。
「秋俊くん! 秋俊くんしっかりして!」
騒然となった病室。秋俊は胸を抑えて呻き、やや遅れて駆け付けた医師が怒鳴りちらすようになにか指示を出している。
そんな中、儚は開け放しのドアから、病室を出た。


「おつかれ」
幽が言った。
眼下にはさっきの病院が見える。秋俊には手術が行われるのだろうか。
「……うそを、ついてしまいました……」
そう。儚は、知っていた。
秋俊が、死ぬことを。
秋俊が生きていたのは、俊晴がいたからだ。彼が息子の生を祈っていたから、秋俊は生きていた。死者の念いにはそういった力がある。
俊晴が消滅すれば、秋俊は死ぬ。儚はそう知っていた。
「私が、あの霊を斬らなければ、彼はまだ……」
「そうだね」
浮遊しているくせに幽は腕枕をして、寝転がるような体勢をとっている。
「でも、それじゃ生きてはいない。死んでないだけだよ」
コクン、と儚は頷く。
あのまま俊晴の霊を放っておくわけにはいかないことは、儚もわかっている。あの未練の強さでは、彼はいずれ悪霊化し、その影響は秋俊にもでただろう。
だが――
儚はすっと幽に背を向けた。幽はなにも言わなかった。
俊晴にうそをついたことは、正しかったのだろうか。真実を伝えるべきだったのではないか。それはわからなかった。
儚は、幽に見えないよう、少しだけ悲しさを表情にだした。
「本当に、バラエティに富んでるな。最近の霊……」
幽がボソッと呟く。



SNSでこの小説を紹介

ファンタジーの他のリレー小説

こちらから小説を探す