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暗殺少女
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暗殺少女 15

生まれたばかりの、最初に抱いたときの顔。じっと俊晴を見つめ、ニコッと笑ったように見えた。
初めてしゃべったのは、お気に入りのミニカーを『ブー』と呼んだときだ。そのときは妻と二人で大騒ぎした。
幼稚園の入園式には俊晴も出席した。秋俊は誇らしいような、照れ臭いような感じでしゃちこばったキヲツケをしていた。
小学校の入学式は、仕事があって行けなかった。でもその日の夜、秋俊はランドセルを背負って期待に目を輝かせていた。
そして、あの日、生まれて初めての遊園地で力いっぱい遊び回る秋俊の、楽しそうな表情。
「また行こうね!」といったときの、いっぱいの笑顔。
視界が、ふいに歪んだ。頬を雫が伝い、目頭が熱くなる。涙がほおを伝って床に落ちた。俊晴は自分を責めた。なぜもっと落ち着いて運転しなかったのか。なぜトラックを避けきれなかったのか。なぜ、あのときしっかりと秋俊を守ってやれなかったのか――。
そのせいで、気付かなかった。
いつの間にか病室の中に、何者かがいたことに。
「お迎えにあがりました……」
その声に驚いて、俊晴は振り返る。そこにいたのは、見たところ秋俊より六歳ばかり年上の、少女だった。
「君は……?」
「儚と申します……」
少女は言った。
「……帰依を拒否した魂を、裁きにきました……」
「た、たましい?」
瞬間、俊晴は気付いた。
「……オレの魂を、取りに来たのか」
それは記憶にあった。俊晴が霊として意識を取り戻す前、ぼんやりとした思考の中、彼に射す光があった。俊晴はその光のほうへ行くべきなのだと無意識に理解したのだが――彼は行かなかった。行けなかったのだ。
「秋俊を思うと、行けなかった……」
「…………」
儚は無言でどこからか刀を出し、すっとそれを俊晴に向ける。儚の瞳が俊晴を捉えた。
「あなたをお迎えにあがりました。……蒲生俊晴」
微かな声で、しかしはっきりと俊晴の耳にそれは響く。
「……あなたは帰依の機会を失いました。……申し訳ないのですが、消えていただきます」
刀の切っ先が、鈍く光る。
「……いやだ!」
俊晴は喚くように言った。
「秋俊が! まだ秋俊がいるんだ! いつ……いつ死ぬかもわからない! ついててやりたい!」
涙が、ほおを伝う。愛しい息子の命を見守りたいという想いが、俊晴を繋ぎとめていた。
が、しかし、儚は――刀の切っ先を、下ろすことはなかった。
「……秋俊は」
俊晴が呟いた。俯いて表情が読み取れない。諦めたようにも、抵抗の予兆にもそれは見える。
一瞬間が空き、続けた。
「生きられるのか?」
儚は一瞬――逡巡するように、目を背けた。
しかし、言った。
「安心してください。蒲生秋俊は――少なくとも、いますぐに死ぬことは……ありません」
「……え」
その瞬間、俊晴は胸のつかえが溶けたように感じた。
「……そうか……」

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