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暗殺少女
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暗殺少女 13


刈り取られたくないがために数多ある手段でジャッジメンターの眼をかいくぐり、悪霊としての生活を泣く泣く過ごしていた。
一度諦めた恋の桜。そのチャンスがもう一度表れた時、悪霊という自分が醜く思えた。戻れないかと頑張ったのだ。
身を清めたり正したり、我流のなすままに、恋心のままに自分を矯正しようとした。
するとその甲斐あってか、外見だけはなんとか保つことが出来た。
しかし魂が人間に告白が出来るかどうかの前に、靈は自分の身体にコンプレックスを感じていた。
悪霊という名前自体が恥ずかしくもあった。

だから靈は好きな人が悪霊に傾くのを見て、不安と期待の両方を募らせていた。

そんな時、靈の前に現れたのが景だった。

「悪霊の気を隠していただと?」
暗黒とも言える色を成した気が靈からだだ漏れる。
「殺させない! 殺させないんだからっ!」
仮面の剥がれた靈は醜く、動くたびに人の形を崩していく。
しかし手足は健在で、床に、壁に、そして天井に飛びつきながら、景に突進をし続けた。

「うわぁぁ!」
「くっ」

突進を避け、その後に通り過ぎる黒い風圧に景は息苦しさを感じた。
夜は闇の者を躍起にさせるとは本当の事らしい。
景はジャッジメンターという職業柄当前のことを改めて感じていた。

「悠くんには一歩も近づけない!」

靈は職員室から景を遠ざけようとしているが、景にとってそれは好都合と言えた。

これだけ騒いでいる靈を、そして自身を刻田に気付かれても癪だと考えた景は後じさって後ろに跳んで、わざと職員室から離れた場所に靈を誘った。
で、わざと職員室から離れた場所に靈を誘った。

「そのまま帰れ! 消えろ! 死ね!」

それはもう完璧に靈では無く15年を経た悪霊の叫びだった。

だが、15年という歳月が景にとってどれ程のものか、靈には分かるはずも無かった。

15年の突進を見据えて、四百年の太刀は的確に靈を貫き、切り裂き、返し刃を翻した。
散々に魂という形を切り刻まれた靈は断末魔の叫びを上げて黒い粒子が霧散する。
その断末魔の木霊さえ消えたころ、景は愛刀を鞘にしまい、今や何者もいない廊下を見据える。

「願わくば、また人として生まれてこい、靈」

聞こえるはずの無い言葉も空気に霧散する。そして景は刻田のいる職員室へと歩を進めた。
「悠……く……」
何かの声がしたような気がしたが、それもまた夜の静寂に飲み込まれるのだった。


職員室に足を踏み入れ、刻田に気付かれぬよう天井を走って音もなく止まる。
「御迎えに上がりました」
そして言葉と共に、景は刻田を上から暗殺した。
刺された刻田は声も上げられずに霧消する。
前葬った高校生の霊よりもあっさりとした太刀筋に、景はため息をついて首を振る。
靈を斬った時の感触が重すぎたのだ。

しかしこれが景の成すべき業であり、景そのものなのだ。

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