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暗殺少女
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暗殺少女 12

「まあ、話したくないなら良い。死神予備生の件、頼んだぞ」
「は……はあ」
「では私は帰ろう」

あまりにも素っ気無く景は踵を返し、廊下を歩いていった。靈は何一つ得ない顔でそれを見送る。

「気付かれなかったということでしょうか?」
と呟く靈と、

「厄介なことに首を入れてしまったな」
と呟く景と。

景は今日の夜に靈に会うことを知っていて、靈は今日の夜に景に会うことを知らなかった。


放課後はどんどんと日がかげり、やがて夜、暗闇の世界へと変わっていった。




『第四話 地縛靈の恋路や如何に 後編』

部活も終わり、学校全体が暗闇に包まれる。そこに他の教諭に代わって日直の役を担う男がいた。

彼はこの学校の教員だった。
しかし彼に他の人間を気遣う余裕など無い。

あるのは心の中の類い稀なる暗闇と、ただならぬ獣の臭いだった。
彼の名前は刻田悠(ときた ゆう)。
この学校を代表する爽やかな体育教師である。ただし、その肩書きも昼間限定の話だが。
15年前この高校を卒業し、教職を学び、教師としてまた学校に通っている。
母校は初めこそ懐かしかったが、新任教師という上下に人間を持つ環境に戸惑い、ストレスを感じる日々を過ごしていた。
ストレスともう一つ。刻田は何者からの邪悪で粘着質な視線を感じていた。
体育教師である自分がストーカー云々と騒ぐわけにもいかないと感じた刻田はこの学校に潜んでいるであろう視線の元凶を探すことにした。
だが、そんな勇ましい日々は長くは続かず、今は自分の机に突っ伏して脂汗をかいている。
自分の身体に何かしらの変化が起こっていることには気付いている。

しかし、そんな日々も今日終わる。
景は校門から夜の校内に侵入すると刀を抜いた。
目指すは刻田のいる職員室。
しかし昇降口にさしかかった所で、景の予想通り靈が立ちふさがった。
「させません」
「やはり、お前はあいつを匿っていたというわけか。今日別れてから一日中見ていた体育教師が悪霊化し始めていて正直驚いた」
景は手にある白刃をもたげることはしなかった。戦う気は毛頭無い。
「だから体育も真面目に受けていたわけだ」
「殺すんですか、悠くんを?」
「無論。それが私の勤めだ」

「させない……どうしても殺すって言うなら……私が」

景は靈が涙を流すと共に流れ出す悪霊の本流に顔をしかめた。
「この気は?」

そして改めて見た靈の顔は半分はそのままに、もう半分は黒い闇で塗り潰されていた。
「私がアナタを殺します!」
ある意味で、それは偏愛と言えた。
霊は刻田に告白をしようとしたその日に事故で死んだ。
死ぬに死なれぬ状況で、三途の淵にしがみつき、この学校にその身を縛り付けた。
悪霊になるのに一月もいらなかった。
それからは学校で恋人の邪魔をしたものだ。

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