PiPi's World 投稿小説

クロノセブンス
その他リレー小説 - ファンタジー

の最初へ
 28
 30
の最後へ

クロノセブンス 30

イーグリットは白い光に包まれた。目に映るものは何もない、ただそこにあるのは竜の吐き出した熱線の光。そんな中、誰かの声がイーグリットに語りかけてきた。不思議な程それは鮮明に伝わってくる。

「皇帝の剣を握りし者よ、汝の力開放し、悪竜を石に封じこめたまえ…」

幻獣の熱線が途絶えると、そこには直撃をくらったはずのイーグリットが長剣を構え立っていた。彼は冷徹な瞳で宙に浮く幻獣を見つめる。

「竜を斬る事、それはこの剣を手にした者の宿命…」

イーグリットの頭で響く声。それは彼に不思議な力を与え、まるで自分の体を他人の体のように思わせた。彼はゆっくり目を閉じると呟く。
「僕は…、僕が…」
次の瞬間、戦闘で薄れかけていた霧が一気に吹き飛んで消えた。それはイーグリットが長剣を一振りした後だった。天井を覆ってしまいそうだった竜の翼は、片方が床につくともう片方も落ちていった。
「僕“が”勇者だ!!」
竜の体が光を帯び始め、薄れていく。だがそれでも竜は動き続ける、床に平伏しても首だけを起こしてイーグリットを睨みつけていた。
イーグリットはその姿を遠くを見るような目で見ている。竜は残った力で地を這い彼に近付くが、イーグリットは全く動じない。
雷鳴の様な声をだす竜、その体を包む光は全てを飲み込んでしまいそうなぐらいだった。竜は口を開けると勢いよくイーグリットに突っ込んだ。勢いのあまり床が剥れていく。
しかしイーグリットが竜の口に入ってしまったのと同時に、その首は端からどんどん消えていく。イーグリットを噛み殺す事なく竜は光へと消えた。
イーグリットは握っていた長剣バルムンクを黙って床に突き刺す。不思議な声は消え、力が抜けていった。
「スノット…、嘘だろ?なぁ…、僕を一人にしないでくれ」



遺跡の外で仮面の男は待っていた。勿論、裏出口から少年たちが脱出したという報告を。しかしその報告のないまま、表の入口から少年が一人だけ出て来た。
その少年の名はイーグリット・ロード、竜殺しの勇者の子だ。仮面の男は彼の手に宝石があるかと思い、そこに目をやるが、手には何もなかった。
「よく生きて“こっち”から出られたな、もう一人は?」
「死んだ」
「そうか…」
仮面の男は自分から話しかけておいて言葉を失った。イーグリットは俯いたまま苦しそうに胸を押さえている。

SNSでこの小説を紹介

ファンタジーの他のリレー小説

こちらから小説を探す