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大光旅伝〜『龍』の章
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大光旅伝〜『龍』の章 8

それを知った空也が政治を退いて下町の剣術道場の主になったことで抗争は回避されたが、歳を取って劣等感と権勢欲を強めた先代は次第に弟が自分の地位を狙う妄想に取り憑かれ、ついに暗殺という暴挙に出た。
深夜、寝込みを襲われた道場は暗殺者と門下生の入り乱れる戦場と化した。乱戦の中、先代と対峙したのは空也とその娘の風華。
歳とともに衰えた龍天鏡と父娘の戦いはまったくの互角。手加減の余地など無く、負けた龍天鏡は風華の剣に貫かれて絶命した。

「アタシが龍鏡の力に目覚めたのはその時」

風が風華を取り巻いた。
どこからか少年のような声で天龍が彼女に語りかけた。
龍鏡が死ねば龍は新たな繋を選ぶ。
殺された龍天鏡の後に選ばれたのは、皮肉なことに龍天鏡を殺した風華だった。

「その時、アタシは“風華”じゃなくなった」

龍天鏡となった少女の前に、両親や門下生は皆跪いた。その瞬間から彼らの関係は主君と民に変わったのだ。もう彼女を風華と呼ぶ人物はいない、唯一人を除いて。
その者の名は“秦謡”。先代の息子であり彼女の従兄である。
父の暴走を知ってそれを止めようとして駆け付けた彼を待っていたのは変わり果てた父の死体だった。
秦謡は狂乱して泣き叫んだ。

「しばらくして顔をあげた秦謡はアタシの知ってる秦謡じゃなかった。優しかったはずのアイツは殺意でギラギラした目でアタシを見たの」

次の日から凍雲を二分する抗争が始まった。
先代のもとで権力を貪っていた有力者たちは秦謡に味方した。新たな龍天鏡には市民がついたが、彼らは有力者たちに押さえ付けられて身動きできなかった。
龍天鏡は孤立した。

「孤立したアタシは凍雲を出た。独りになったアタシは天龍の言うとおり大軌様を頼るしかなかったの」
「ならば」
 
龍光鏡の声。
 
「もう凍雲には戻れまい。凍雲の領土はここのすぐ東隣だから分かる。凍雲は昨日から全ての国境の警備を強化した」
「ではどうすれば?」
「北東へ向かい赤凰に戦を持ちかけ、戦の混乱の隙に凍雲領内へ入るのだ…関係無い人を死に追いやる覚悟があるなら、の話だが…」 
月杯が口を挟んだ。
「丙、世界の危機なんだ。関係無い人などいるはずがない」
 
今後の策を練るように話を進める龍光鏡達。その中で龍天鏡は、先程から一言も喋っていない大軌をふと見遣る。
大軌は腕を組み、柱にもたれかかりながら静かに目を閉じていた。まるで自分達の会話など、意に介していないかのように。

「ちょっと大軌様。聞いてるの?」

「丁、暢気に居眠りか。」

龍天鏡と月杯が問い掛けるも、大軌は返事も、聞く素振りさえもしない。こめかみに青筋が立ちそうになる両名を龍光鏡が窘め、そして察したかのように大軌に問う。

「何か他に、良き考えがお有りですかな?大軌殿。」

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