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大光旅伝〜『龍』の章
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大光旅伝〜『龍』の章 1

ここに、一冊の本がある。
何もない真っ白な空間。出入り口や窓すらもなく、ただ白く四角い部屋に、この本だけが置かれている。
この本には題名もなく、ページもない。赤黒く、くたびれた感じから、相当古いというのが伺える。
この本は、世界に“何か”が起こる時だけ、白紙のページが増える。何処からともなく。
そして、それに立ち向かう者、その名と道程が、白紙のページに刻まれ、物語を紡いでいく。何処からともなく。

…今また、この本に、白紙のページが増えた。白紙のページの1番最初に、新たに名前が刻まれる。
 
“龍漸鏡”



「大軌様?大軌様ー…」

白と黒、木と石壁造りの大層な屋敷に、女性の声が響く。
声の主であろう、真っ白な着物に身を包んだ女性が、ぱたぱたと長い木の廊下を進む。

「ここにおります。…母上。」

女性は声の聞こえた場所で立ち止まる。
障子の向こうからその声は聞こえたようで、恐らく捜し人はこの部屋の中だろう。
女性は、呆れたようなホッとしたような表情を浮かべると、そっと障子の戸を開ける。

「また此処でしたか。…貴方は何時も、此処で一人考え事をなさるのがお好きですものね。」
 
部屋は9畳ほどと狭く、畳と障子しかない、何の変哲もない部屋。
その部屋の奥に、羽織り袴姿の少年が、女性に背を向けた状態で胡座をかいていた。
紺色の羽織りの背には、朱い龍が、荒々しく螺旋を描いている。
女性の声に特に反応するでもなく、少年は少し頭を動かすだけであった。
女性は少年に近付き、静かに正座すると、少年もくるりと女性に向き直る。
少年は、艶やかな黒髪を肩につくくらいまでに伸ばし、前髪も目尻の下まで伸びたミドルヘア。
顔立ちは、少々幼さを残しながらも、非常に端正に整っていた。
 
凛々しく上がった細い眉に、長い睫毛、黒々とした瞳。少々つり気味の魅力的な美しい目を、半開きの瞼が半分隠すようにしていた。
この半開きの瞳が、少年の気質を少なからず現しているのだが…

「相変わらず世の中の動きは意に介さず、ですか?大軌様の描いてらっしゃる世界は、一体どのような姿をしているのでしょうね…」

また対面する女性は、少年と同じく艶やかな黒髪で、腰まで届く長さ、前髪は目にかかる程度であった。
少々白めの肌で、顔立ちは非常に端正で、目もつり気味なものの、少年よりは感じは柔らかい。
 
女性の問いに、少年は苦笑いを浮かべるだけで、特に言葉を発しようとはしない。
あまり多くを語る方ではないようである。無口、というべきか…

「大軌様も…龍鏡の血を、1番強く濃く引き継ぐ者なのですから。あまり無関心でも困りますよ?」

「…龍鏡…ですか。」

女性の“龍鏡”という言葉に、少年もぽつりとその言葉を呟く。
龍鏡(りゅうきょう)こそ、この少年達が住まう国の主の名であり、称号だった。
少年の名は龍漸鏡(りゅうぜんきょう)。女性の名は龍心鏡(りゅうしんきょう)。そしてそれぞれ、諱を持っていた。
 

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