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大光旅伝〜『龍』の章
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大光旅伝〜『龍』の章 10

しばらく歩きながら頬を膨らませていた龍天鏡だったが、ふと大軌と月杯が立ち止まった為、彼女も足を止める。
そして視線を上げた瞬間、彼女は大軌がこれから何をしようとしていたのかを理解した。
見上げた先にあるのは、高さ優に400mはあろうかという巨大な岩盤であった。
ここ割末と凍雲の境にはこうした巨大に聳え立つ岩盤が数多く存在しており、この「高守番」と呼ばれる岩盤はその中でも群を抜いて高いのだ。

「だ、大軌様……まさか……」

「この上から飛ぶ。お前の風を使えばわけないだろ……」

「んな無茶な!」
「無茶じゃない。天龍の領分は“天”……すなわち天空だ。空を飛ぶこともできる」
「そりゃ、理論上はそうかもしれないけどー」
龍天鏡も頭ではわかっている。だがやはり感情が了承することを許さない。常識を逸脱した行為に走るには大きな勇気が要るのだ。
大軌もそのあたりはわかっているのだろう。彼は表情を緩めると龍天鏡の頭に手を置いて優しく撫でた。
見上げた大軌の目が言っている。
お前ならできる、と。
「……わかったわよ、もー」
心からの信頼を宿した目に見つめられては、これ以上反対することなどできなかった。龍天鏡は渋りながらも頷く。
「ただし、一番最初に飛ぶのはあたし。一人で試してみて、二人を連れて飛べないようなら中止だからね」
今度は大軌が頷く番だった。
「丙、話がまとまったのなら行くぞ」
月杯が促し、一行は歩みを再開する。
やがて一行は“高守番”の麓に辿り着いた。
そこに着くまでに二時間、一行が思ったよりも四倍の時間が掛かっている。岩盤があまりにも巨大なため遠近感に狂いが生じていたのだ。
「丙、これを登るのか…」
「……でも登らない事には始まらないよね」
 
確かに岩盤の角度は急だが、登れない程ではない。
それを理解している大軌は、一旦立ち止まった二人を尻目に無言で岩盤の端に足をかけた。
 
「ここにヤワな奴はいない。甲と思っておくか」
「……」
 
残った二人も各々覚悟を決め、大軌について登り始めた。
 
 
 
一行は体力の事を考えて誰も口を利かなかったが、半分程登った所で龍天鏡が沈黙を破った。
 
「月杯…、」
「丙、呼び捨てか」
 
月杯は振り向く事無く答える。
 
「…何て呼べばいいか判らなくて」
「……」
 
返事が無い。
 
「それ、杖に良さそうだから貸…」
「丁」
「……(機嫌悪い?)」
 
再び沈黙が訪れようとしたその時、突然大軌が足を速めた。
 
「あっ、どうしたの大軌様!」
 
二人は急いでついて行き、大軌が立ち止まったのを見て急停止した。
 
「危な…今度は何?」
「花だ…」
「え?」
 
見ると、大軌の足元には見慣れぬ白い花が咲いていた。
 
「何故こんな所に…」
「乙、きっと風で種が運ばれて来たんだな」


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