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大光旅伝〜『龍』の章
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大光旅伝〜『龍』の章 7

大軌はこの仕事がどれだけ厄介な物かに気付いた。龍光鏡の決心に頭が下がる思いだった。しかし、龍光鏡はさらに大軌の頭を押し下げた。
 
「その旅、二人では辛いだろう。私の息子を供につけよう…ガッハイを呼べ」
 
大軌は勿論、その息子の事を知っていた。月杯と書く事も、戟の扱いに長けている事も、女嫌いで有名な事も。そして現れた月杯の最初の台詞はこうだった。
 
「丁。龍光鏡様、これは拷問ですか?」
 
「そう言わずに、頼む」
 
何故か月杯はどんな話が進行していたのか知っている様だ。
(盗み聞きしてたな…)
 
「龍光鏡様、よりによってこんな…」
 
月杯は最後まで言わなかったが、その場にいるほぼ全員が、月杯が何を言おうとしたかをよく分かっていた。
しかしさすがに龍光鏡は月杯の性格を見抜いていた。
 
「月杯よ、お前は大陸から来た高水準の方天戟が欲しいのでは無かったか?この方達と旅をすれば、大陸直輸の物が溢れる交易都市にも立ち寄れるだろう」
 
月杯の表情が変わった。迷いつつ冷静を装っている様な顔だ。
 
「それは乙ですね。しかし…」
 
まだ渋る月杯に龍光鏡がとどめを刺した。
 
「何よりお前の戟捌きが存分に奮えるのではないか?」
「…いいでしょう」
「ではよろしく頼む」
「しかし龍光鏡様、天龍の力を取り戻すとは具体的にどのようにすればよいのですか?」
「方法は唯一つ、天龍の解放だ。そのために」

龍光鏡は一旦言葉を切り、大軌の斜め後ろに座っている龍天鏡を見た。

「そこの龍天鏡のお嬢さんを天龍の眠る土地『凍雲(いてくも)』にお連れするのだ。そして龍天鏡」

呼ばれた彼女は背筋をピンと伸ばした。顔色が悪く、唇が真っ青。なにを訊かれるのかわかっているようだ。

「君がなぜ領地を出て、遠く離れた姫鷲までやってきたのか話して欲しい。一体何が起こったのだ?」
 
三人の視線が龍天鏡に集まる。
龍天鏡はすぐには答えず、しばらくの間言葉を探すように虚空を睨んだ。やがて少女の外見に似合わない悲壮感漂う表情で語り出す。

「すべては一月前のある夜、先代の龍天鏡がアタシの親父を暗殺しようとしたことから始まったの」

先代龍天鏡と彼女の父・空也は兄弟であった。
空也は武芸、学問、政治、人望、人格、すべてにおいて兄より優れた人物であり、龍鏡であること以外、すべて人並み以下であった先代の龍天鏡は、己の地位を弟に脅かされるのではないかという恐れを抱いた。

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