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大光旅伝〜『龍』の章
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大光旅伝〜『龍』の章 4

「力に対し、力で挑むというのは、本来不本意で、妥当な手段とは言い難いですが…」

大軌はもう1度、護るべき国を見遣る。暗闇に覆われたこの地を、救いたい。そしてそれは自分しか出来ない。
答えは1つ、決まっていた。

「もう手段は選べないのです。9匹の龍、全ての力を持って、対抗する他には…。しかし、それでも保証は…」

「母上、私は行きますよ。」

「大軌様…?」

双魅の言葉に割って入る大軌。その黒く吸い込まれそうな瞳には、確かに決意の炎が燃えているのが見えた。
双魅は複雑な表情を浮かべる。
我が子の強い意思に感嘆しつつも、しかし不安な気持ちは拭えなかった。どんな親でも、子を戦地になど、送りたくはない。
しかし、彼にしか出来ない。それは繋である、そして親である自分が1番よく解っていた。
しかし、しかし…

「心配しておられるのですか?この私を。ご冗談…」

大軌の言葉に、双魅はハッと目を開ける。彼は背を双魅に見せる形で国を眺めていた。
上背はない大軌だが、その広い肩幅と羽織りの龍が相俟って、圧倒的な雄大さを醸し出していた。
…まるで、その背に、強大な龍を宿しているかの如く。
 
「大軌様…。い、いえ。」

湧き上がる、言い知れぬ感情に込み上げる涙を堪え、首を横に振る双魅。
もう何も言う事はないと、今まさに国と龍とを背負った愛しき我が子を送り出すと決めた。

「お行きなさい、龍漸鏡大軌。漸の名の示すままに。」

大軌の逞しい背を抱き締め、無事を祈る母、双魅。大軌もそっと母の手に触れ、決意を固める。

「龍漸鏡大軌、参る。」

(貴方なら統べられる、9匹の龍を。貴方は龍“全”鏡、漸が全に変わる時、貴方は龍王となる…)

母はそっと胸に言葉をしまい、息子を送り出した―

 
 
「はぁー…ったく、ああは言うけど、面倒くせーなー…」

大軌は姫鷲の町に降り、通り掛かりに茶屋に立ち寄っていた。
先程の決意は何処へやら、団子を頬張りながら、無気力そうに曇り空を眺めている。
繋に会え、とは言われたものの、大軌には何か当てがある訳でもなく、正直途方に暮れていた。
母、双魅の前では先程のように引き締まる訳だが、双魅と居ない時の彼は、いつもこんな感じだった。
無気力で食欲と睡眠欲だけは旺盛。しかしながら、これが龍漸鏡大軌の本来の姿なのである。
これから世界を救わんとする英雄がこれでは、先行き不透明なのは確実である。
茶を啜りながら、何か上手い言い訳はないかと考えを巡らす彼に、世界はただ良い方向に事態が流れてくれるのを祈るしかない。

「…眠…。」

「あー!大軌様!」

心地よい夢行きの船が、彼の脳内港に入港した時、突如その船は荒波に飲まれた。
大軌は、自らの至高の喜びである睡眠を妨げた、大声の主を恨めしそうに見遣った。

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