武竜戦記 34
「光波殿、そちらのユメさんは今回の作戦に?」
「女は足手まといだと思うぞ?」
「二人反応はもっともだが、邪魔をされるぐらいなら作戦に加える方が成功率が上がる、不本意だが黄色の玉はこの女に任せた方が最善と判断する」
「しかし光波殿、この女性は人間のオーラをまとっています。竜術は使えないかと…」
ソルトの意見を聞くと、十六夜は腕を組み人差し指を振って笑った。
「竜族言語術。まぁ竜術の事だが、その基本は空気を圧縮する事。知”という所で見せてもらった本に書いてあったんだが、人間は竜術は使えないが“魔法”とやらで空気を圧縮させられるらしい」
「“らしい”ですか…」
十六夜の自信満々の説明に対し、バジルは大きく何度も頷いていたが、ソルトは苦笑いで言葉を返した。
「わ、私使えるぞ。その魔法」
十六夜がソルトに見つめられ生唾を飲んだ時、ユメはフラフラになりながら立ち上がりそう言った。
「な?言った通りだろ?」
ユメの発言で十六夜の表情に自信が戻った。バジルはずっと頷いたままで、ソルトはユメを疑いの目で見つめる。
「じゃあ黄色はお前に任せた。ユメ、失敗は許されないからな」
「十六夜殿がそう言うのであれば…。しかし、一時間後開始の作戦にユメさんは参加できますか?」
ソルトがそう言い、十六夜が彼の指さす先を見ると、先程返事をしたはずのユメが目を回して倒れていた。
「強く叩き過ぎたか…」
一時間後…
バジルは緑の玉を腰にぶら下げ、巨大な岩を両腕で押していた。岩が動く度に地面から砂煙が巻き上がる。彼は岩を押し続けたが、ある地点でピタッとそれを止めた。
「この辺りでいいかな」
バジルが岩の向こう側を確認する。岩のすぐ向こうの急斜面の先は、狼型グルーの群れで真っ黒く埋め尽くされていた。