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クサナギ〜蒼い剣と紅蓮の翼〜
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クサナギ〜蒼い剣と紅蓮の翼〜 10

恐怖が足を動かし、墓の間を全力で走る。だがその行く手になにか大きいものが落ちてきて、進路を塞いだ。
真上から現れたのはスコップを持った男だった。
「わああぁぁ!」
月明かりに照らされて見えた男の顔のあまりの恐ろしさに真は再び叫び声を上げた。肌は爛れて黒く変色し、唇や瞼は腐り落ちて、歯茎と眼球が剥き出しだ。そのため笑っているように見える口の端から涎を垂れ流し、腐臭が鼻を突いた。
「ブアアアァァァ!」
男はスコップを振り上げ、真の脳天めがけて一息に打ち下ろした。
真は怖くて身動きが取れない。
その時、横様から割り込んだ何かが男を打ち倒した。
逸れたスコップは真の肩先をかすめて地面に当たった。
吹っ飛んだ男の代わりに降り立ったのは、毛むくじゃらの化け物だった。口は耳まで裂け、顎の間から鋭そうな牙が覗いている。そして何よりも目を引いたのが暗闇で光る燃えるように赤い眼だった。
起き上がった男が化け物に飛び掛かる。スコップを振り下ろし、脳天を思いっ切り叩く。
響いた鈍い音に真は思わず目を瞑る。
だが化け物は全く聞いた様子も無く、男の腕を掴み上げると地面に倒して組み敷いた。鋭い牙が喉に食い込む。
「オオォォ……!」
男が断末魔の悲鳴を上げ、身体を痙攣させた。化け物が喉を食いちぎると、一瞬ビクッと跳ねて動かなくなる。しばらく経つと端から身体が崩れ塵に変わった。
(これは……!)
真は尻餅をついたまま目を見張る。昨夜見た似たような光景が頭に浮かんだ。
(今のも人外? じゃあこいつも……)
真は残った化け物を見上げる。そいつは不気味な赤い目で真を見下ろしていた。
「ご苦労だった。戻っていいぞバグベア」
後ろから女の声がした。
振り向くと、オレンジ色の小さな光が闇に浮かんでいた。
すぐにそれが煙草の炎だと気付く。
不意に後ろから風が吹くのを感じて視線を戻すと、そこにはもう化け物の姿は無かった。
「墓掘り人か……外人墓地とは言えこの日本に現れるとはな」
独りで呟きながら女は月明りのもとに進み出る。男っぽい口調に似合う、中性的な美女だった。黒のパンツスーツもよく似合う。
「今回の異変、何者かが裏で動いているのか? チッ、面倒臭ぇことになってきたな」
髪を掻き上げ、苦々しく吐き捨てるように呟く。
一目で女性とわかる体躯でありながら、言動はかなり男らしい。そのギャップが真を更に混乱させる。
「なんなんだ……アンタ……」
「『化け物』さ」
勇気を振り絞って問い掛けた真を見やり、あっさりと答えた。
「あまり好奇心に身を委ねない事だな。小事が大事になる事もある」
有り難い忠告だが、今の真は現状認識だけで手一杯で、それを受け入れる余裕はない。

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