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クサナギ〜蒼い剣と紅蓮の翼〜
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クサナギ〜蒼い剣と紅蓮の翼〜 1

その奇妙な神社は本当の役割を知られること無く、ただ静かにそこに佇んでいた。
長い間放置されて荒れ放題の内部には祭壇など無く、ただ建物に囲まれるように一本の古い剣が刺さっているだけだ。
剣は床より一段低い高さに、地面に直接刺さっている。その光景は、神社に剣が納められているというよりも、もともと刺さっていた剣の周囲に神社を建てたかのように見えた。剣は勿論の事、神社の名前すらも知る者は少ない。
その夜、不意に神社が揺れ、物がカタカタと音を立て始めた。揺れは段々大きくなり、建物が歪んだかと思うと、次の瞬間拍子抜けするほど呆気無く崩れ落ちた。柱がぽっきりと折れ、梁が落ちる。
崩壊に巻き込まれた剣は瓦礫に打ち付けられてもびくともしないでそこに刺さっていた。しかし揺れが収まった時、ひとりでにヒビが入り、粉々に砕け散った。
そして同時に剣が護ってきた封印も砕けた。そこから瘴気と邪気が噴き出して、急速に街を覆っていく。やがてそれらから邪悪な蛇の化け物たちが生まれ、街に散らばっていった。
その街の名は草薙市。人口200万を超えるこの巨大な地方都市に古の戦いが再来した瞬間だった。


静まり返った夜の裏路地で【龍海 高志郎】は怪異と睨み合っていた。
怪異。それは【人外】と呼ばれる化け物の起こした怪奇現象、もしくは人にあだ名す人外そのものの事である。
今、高志郎の目の前にいるのは後者。アナコンダよりも全然大きい、大蛇の化け物だった。
大蛇はシューシュー唸りながら隙を窺っている。そしてそれは高志郎も同じ。彼は大蛇と睨み合ったまま摺り足で右に歩いた。大蛇の首もそれを追うように少しずつ右にスライドしていく。そして道の端に辿り着いた高志郎の肩が壁にぶつかったのを見るや、大蛇は大口を開けて飛び掛ってきた。
高志郎は路面を蹴り、左に飛んで大蛇の牙を躱す。着地と同時にまた路面を蹴り、今度は前に走った。視界の端を硬そうな鱗を生やした大蛇の身体が流れていく。完全にすれ違ったら今度は方向転換、再び大蛇に向かい合う。
「開錠せよ」
短い呟きの直後、高志郎のそばの空間が裂けた。そこに腕を突っ込み、すぐに引き抜く。すると彼の手には両刃の短剣が握られていた。
再び走り、大蛇に接近する。最初の突進で壁に頭をぶつけた化け物は、まだフラフラしていた。
高志郎は跳んだ。同時に短剣を振りかぶる。
「でやああぁぁ!」
裂帛の気合とともに大蛇の頭を縦に両断した。
赤黒い血を撒き散らしながら大蛇は崩れ落ち、絶命した。死体はたちまち粒子になって空気に溶けて消えていく。
高志郎は裂け目に武器を収納し、その光景を見届けた。緊張が解け、溜息が漏れる。
「ふう、これで3日連続か……最近多いな」
数日前の地震の直後に正体不明の瘴気と邪気が発生してから妙に怪異が多い。普段なら一月に一回程度だった化け物退治をほぼ毎日しなくてはいけなかった。
「……戻るか」
トイレに行くといって出てきてからもう随分時間が経っている。今頃カラオケボックスでは結衣がむくれて、真が困っている事だろう。少しだけ急ぐ事にする。
「っは!」
高志郎は跳んだ。雑居ビルの壁に足をかけまた跳ぶ。それを繰り返して屋上に着地、今度は隣の雑居ビルまで跳んだ。そうやってビルからビルに跳び移って行く。
ビルとビルの間は5メートル以上離れている。人間離れした跳躍力だった。
そう、高志郎は普通の人間ではない。ヒトと人外の混血、人間でありながら人外の力を持つ者、【鬼児】と呼ばれる異能者だった。
神代と呼ばれた神々の時代。大地はヒトと人外が入り乱れた混沌の渦中にあった。優れた肉体と異能を持つ人外は好き勝手に振る舞い、ヒトを脅かした。そんな時、人外と戦い、ヒトを守る存在が現れた。それが鬼児だった。以後、彼等は歴史の裏側でヒトに仇を成す人外を屠る役目を負うことになる。そしてそれは21世紀を迎えた現代でも変わらない。
高志郎の生まれた龍海家も代々この草薙の地を守ってきた鬼児の家系なのだ。


「ん……」
カーテンの隙間から差し込む光が眩しくて、高志郎は目を覚ました。うつ伏せのまま顔を上げて、枕元の目覚まし時計を見る。午前7時5分。そろそろ起きる時間だ。
ベッドから立ち上がり、大きく伸びをする。そうすることで固くなっていた筋肉がもとの柔軟さを戻した。
ダイニングに下りると既に朝食の準備が整っていた。キッチンから母親の籐子が出てくる。
「おはよう母さん」
「あら、おはよう高志郎。今朝は遅いのねぇ」
「ん、ちょっと疲れてるかも」
席について味噌汁を啜る。テレビは朝のニュースを流している。丁度良く草薙市で起こっている連続怪死事件及び続出する行方不明者のニュースが読み上げられているところだった。

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