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クサナギ〜蒼い剣と紅蓮の翼〜
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クサナギ〜蒼い剣と紅蓮の翼〜 42

指先からの出血が急激に増え、泉梨は顔を顰める。
流れ出た血は魔方陣に吸い込まれた。
そこから燃えるように赤い目の毛むくじゃらの化け物が顕現する。
「征け」
命令と同時にバグベアは駆けた。一気に墓掘り人に肉薄し、喉笛を食い千切る。
墓掘り人は音も無く消滅した。
しかし場の空気がより一層緊張するのを感じて、泉梨は身を固くして警戒する。
周囲の墓がガタガタと揺れ、土の中から死体の手が次々と這い出した。
「ちっ、ここも既に取り込まれていたのか」
泉梨は自分が誘い込まれたのだという事に気づいた。
執拗な追撃に相手が痺れを切らしたのだろう。
「それはそれで好都合だ」
この状況ならば術者も出てくる可能性が高い。泉梨自身も危険だが、敵の戦力増強を虱潰しにしていくより敵そのものを倒した方が効率が良いのは確かだ。
「もういいぞ、バグベア」
泉梨はバグベアを消した。
周囲は亡者どもに完全に囲まれている。下級妖精でしかないバグベアではきつい。ならばもっと上等な奴を呼ぶまでだ。
泉梨はまた魔方陣を描く。三角形をベースにしたさっきよりもずっと複雑な陣だ。
「フルフル」
地面を叩いて陣を展開。
炎の尻尾を持った牡鹿の姿をした悪魔が顕現する。
ソロモン七十二柱の一柱。天候を操る能力を持つ、悪魔の伯爵。しかしその真の姿は天使である。
天使に姿を変えたフルフルは両手を大きく広げる。すると空に雲が立ち込め、ゴロゴロと低い音を立て始める。
「薙ぎ払え」
雷鳴が弾け、視界が真っ白に染まった。
降り注いだ雷が亡者共を叩き潰し、焼き尽くし、吹き飛ばす。
雷光が晴れた時、亡者どもは跡形も残っておらず、焼け焦げ砕け散った墓石だけだった。
焦げ臭い風が頬を撫でる。
「……ッ!」
風に乗って来た微かな音に泉梨は口元を吊り上げた。
「ふ……そこか!」
即座にフルフルを送還。ナイフを左手に握り、大勢を低くして駆ける。
フルフルが薙ぎ払った範囲の外、他の墓よりも大きな廟の影に誰かが息を呑む気配があった。
慌てて飛び出してきた影に泉梨はナイフを投げ放つ。
「ぐぁ!」
確かな手ごたえ。
やはり魔術師、ナイフ一本でも足元がふら付く。
追撃を仕掛けようと泉梨はさらに走る。
逃げようとする相手の後ろ姿が見えたその時だった、泉梨の目の前に雷が落ちた。
「なにっ!!」
間一髪直撃は避けられたが・・・
「!!」
目の前にいる相手を見て驚愕した。
「フルフル!?」
しかも自分の呼び出したフルフルが泉梨に敵意剥き出しで立ち塞がっていたのだ。
通常召喚獣は召喚主に牙を立てたりはしない。それは契約を交した時点で主を認めているからである。希にそういうこともあるらしいが泉梨に術を暴発させた記憶はない。

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