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クサナギ〜蒼い剣と紅蓮の翼〜
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クサナギ〜蒼い剣と紅蓮の翼〜 5

高志郎はごく自然に訊いていた。
「一つだけなら、あるわ」
彩華も反射的にそう答えた。
直後、おかしな違和感を感じて、二人の間に微妙な空気が流れる。
「不思議だな。初めて組んだ筈なのにそんな気がしない」
「奇遇ね。あたしも似たような気分よ」
顔を見合わせ、同時に笑みを浮かべる。
「やるか」
「ええ」
高志郎は武器を構えて走った。
その場に残った彩華は目を閉じて呼吸を整える。すると彼女の周囲の熱量が上がり、膨張した空気が陽炎を作った。闘気が滲みだしてたちまち紅蓮の炎となる。
炎の闘気は右肩に集まり、腕を介して武器へ流れ、炎の鞭となった。
「はっ!」
彩華は床を蹴って駆けた。同時に高志郎が飛び退く。
鞭を振り上げ、跳んだ。
「ヴァルログ!」
紅蓮の鞭が悪鬼を激しく打ち据え、吹っ飛ばした。同時に全身に炎が走る。
「ギャアァァッ!」
「とどめだ!」
火達磨になってのた打ち回る悪鬼の眉間に高志郎が短剣を突き刺した。
「ギ……グ……」
悪鬼は力尽き、どうっと派手な音を立てて倒れた。塵に変わって消滅していく。刺さったままだった短剣が、支えを失って落ち、高い金属音を立てた。
「やっ……た」
悪鬼の消滅を見届けた彩華の身体がぐらりと傾ぐ。危うく倒れそうになったところを高志郎が受け止めた。彩華は気絶していた。
「お、終わったのか?」
真が覚束ない足取りで歩いてくる。その横の結衣は顔面蒼白だった。
「ああ、終わったよ」
安心させてやろうと微笑んで答えてやる。すると少し落ち着いたのか、2人の表情が幾分和らいだ。
次に彩華を柱に寄りかからせ、ハンカチで腕の傷を縛って応急措置をした。
「橘さん、大丈夫か?」
「あまり大丈夫じゃないな、ちゃんとした手当てをしないと……」
「救急車、呼ぶ?」
「いや、病院は拙い。俺の家に連れて行く」
結衣の意見は却下する。すると2人は不満そうな表情をした。
それを見て高志郎は、自分の発言にやや語弊があったことに気付いた。慌てて取り繕う。
「べ、別にヘンな事しようと考えているわけじゃないからな。看るのは母さんに任せる」
「なら、いいけどよ」
「と、とにかくココを離れよう。まだ安全とはいえないからな」
そう言って高志郎は彩華をおぶって歩き始めた。背中に真の恨めしそうな視線が突き刺さる。それを無視して早足で歩き、廃ビルを出た。
 
廃ビル前で真と別れた高志郎は結衣と一緒に家のほうまで歩いた。無言のまま時が過ぎ、自宅の近所までやってくる。
「じゃあ、また明日な」
「うん……」
結衣を家の前まで送り、そこで別れた。彼女がのろのろと家に入るのを見届けた高志郎はため息を吐く。
(明日、説明してやらないとな)
別れる前の結衣と真の目には戸惑いと怯えが見て取れた。それは高志郎と彩華の異能に対しての感情だという事は考えなくてもわかった。
怯えられ、恐れられ、憎まれ、妬まれ、忌み嫌われる。正体がばれた鬼児の宿命だった。

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