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クサナギ〜蒼い剣と紅蓮の翼〜
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クサナギ〜蒼い剣と紅蓮の翼〜 38

そこにいたのはこの若さで巨大企業を牛耳る天才ではなく、異能を駆って化け物を屠る魔術師でもなく、一人の少年に恋焦がれる一人の少女だった。
そんな早苗に結衣は親近感を抱き、そして同時に気づいた。
真が想いを寄せているのは彩華だ。そして高志郎も彩華に惹かれつつある。つまりどちらにとっても彩華は恋敵である。
(彩華、先輩)
結衣の心にどす黒い感情が生まれる。
己が身を焼くようなその感情は憎悪にも嫉妬にも似ていた。
 
「・・・バチカンに行かず、誰かに封印する事もなく、魔力片を祓う方法はたった一つだ」
シキミが呟いた。
「それは?」
早苗の言葉に一度躊躇するが重々しく口を開いた。
「術者の消滅、つまり『カジの消滅』だ」
瞬間、戦慄が走る。
「無理じゃ」
「無理だな」
早苗達の反応よりも早くクロと斉賀が答えた。
「やる前からなぜ!?」
「言いたい事はわかるしやりたい気持ちもわかる。だが無理なものは無理だ、お嬢さん」
早苗の言葉に斉賀が答える
「『協会』の全勢力を動員してせいぜい相討ちが関の山の相手だ。こんな少人数で勝てる訳がない。」
「それに奴を悪戯に本気にさせてしまえばこの街が地図から消える。そんな奴なんじゃよ、カジは」
二人の言葉に流石の早苗も押し黙る。

「わかりました。では今はできる事からやっていきます」
早苗は恋する少女の顔から魔術師の顔に戻して言った。
「書庫に戻りましょう」
「あ、はい!」
結衣を引き連れて訓練場から出て行く。
その背中を見ながら斉賀は嘲るように嗤った。


「真君が見つかったそうよ」
放課後、高志郎と彩華は真発見の連絡を受けた。
「無事だったか……」
よほど心配だったのだろう、高志郎は安心したようにホッとため息を吐く。
しかし彩華の表情は芳しくない。
「見つかったのはいいのだけれど、彼なにか悪いモノに憑かれてたらしいわ」
「祓えなかったのか?」
「早苗や専門の魔術師でも見ているしかできないそうよ」
高志郎の表情が険しくなる。早苗の魔術師としての能力を信用していただけに、事態の深刻さがわかったのだった。
「とりあえず真君の事は保留して、あっちは当初の予定通り動くみたい」
「……じゃあ俺たちもそうしよう」
真を捜す以外にもやるべき事はある。真の事が気にならない訳じゃないが、手を抜いて良い事にはならない。
感情に流されず、やるべき事からやっていく。退魔の血を引く者たちの鉄の掟だ。
「行くぞ」
「……ええ」

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