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クサナギ〜蒼い剣と紅蓮の翼〜
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クサナギ〜蒼い剣と紅蓮の翼〜 37

シキミがクロの後を引き継いで言う。
早苗は彩華が一喝したら真が一瞬正気に戻ったという事に思い当たる。
「ただ時々前触れも無く破壊衝動に駆られるらしくてな。こうして抑えているわけだ」
「わからん少年だ。あの道化に目を付けられたという事はそれなりの力と相応の凶気を持っておるんだろうが、それでいて闇を抑える精神力もある。まったく、弱いのか強いのか……」
クロは呆れた目で真を見上げる。
それに倣って結衣が心配げに、シキミが怪しげに真を見た。
封じられた少年は身動ぎもしない。
誰もが途方にくれたその時、
「おやおや、更に重苦しくなってんな」
林檎片手に、斉賀が入って来た。今の状況を知っている筈だが、彼に深刻ぶっている様子はない。
「何をしに…」
「何だ、まだ死んでないのか」
早苗の言葉を遮って不吉な台詞を吐く。その瞬間、彼は全員の鋭い視線を浴びたのだが、それを無視して、横たわる真を、意外にも真剣な眼差しで凝視した。
「追い出すのは無理…だよなぁ…肩代わりするのはごめんだし…」
「だから方法を探している」
シキミが言い捨てる。
「肩代わり、って…」

結衣の呟きに答えたのはクロだった。
「何らかの方法であ奴の体から魔力片を取り出し、行き場を無くしたソレを誰かに押し付ける、という事だ。
だが、あの道化のは引き剥がす事は不可能に近いし、もし万が一出来たとしても、被害者が入れ替わるだけの事、つまりは無意味という事になる」
そこまで言って、クロは目を閉じた。
「そんな…」
結衣はうめくように呟いた。
「コイツ、一度は正気になったんだよな?」
「ああ」
「ならば、コイツの精神力に賭けてみるってのはどうだ?」
「何?」
「どういう事ですか?」

シキミと早苗が声を上げた。
「つまり、祓うんではなく、コイツに封印しちまうって事」
「却下します」
斉賀の提案を、早苗が即座に却下した。絶対零度にふさわしい視線が斉賀を射抜く。
「貴方のいう方法では、彼にかなりの負担がかかります。それにその状態では、いつか誘惑に負けた時、誰も彼を止められなくなるでしょう。彼を戻すのならば、その魔力片を祓う方法を探すべきです」
シキミが真から目をそらし、クロが深く息を吐く。結衣は真から目を離さない。
「……可愛いねえ、君は」
斉賀はぼそりと低く呟くと、頭を掻いた。
その口許には笑みが浮かんでいる。
「何が可笑しいのです?」
「いやなに、君らしくもなく献身的なんでな。こいつに特別な思い入れでもあるのか?」
斉賀が意地の悪い表情を浮かべて言う。
早苗の顔が強張る。いつも余裕のある振る舞いをしていた彼女が、明らかに怯んでいた。
「図星、か……まるで見た目通りの少女だな」
斉賀はニヤニヤ笑いながら林檎をかじる。
早苗は逃げるように斉賀から目を逸らし、再び真を見上げた。
結衣が早苗に気付かれないように彼女の横顔を盗み見る。

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