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クサナギ〜蒼い剣と紅蓮の翼〜
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クサナギ〜蒼い剣と紅蓮の翼〜 31

「あっちが邪魔してこないうちは放っておこう。下手に戦えば八頭の数が減らないとも限らないからさ。ま、強制はしないけどね、特に酒井」
「う……」
ずっと不機嫌そうにそっぽを向いていた酒井は、いきなり名指しされて呻いた。
「あ、でも十年前の火傷の礼をするなら早い方がいいかもな。奴等の能力が完全覚醒したら、単独じゃきつくなる」
「ちっ、わかってら!」
「酒井!」
氷室の制止も聞かず、酒井は唾を吐き捨てて礼拝堂を出て行った。氷室も慌てて礼をして出て行く。
礼拝堂には少年と少女だけが残された。
「無礼な……」
「いいじゃないか。聞き分けが良過ぎたら魔物らしくない」
少年は少女の髪を優しく撫でる。それで少女の機嫌は治ったようだ。
「ところで、頼みたい事があるんだけど」
「何なりとお申し付けください」
「残りの八頭を全員この町に集めてくれ。万霊節を迎える前にひと騒ぎありそうだ」
少年は笑う。その口の端から赤々とした火が漏らしながら。
月が翳り、赤い火が闇に映える。
その礼拝堂の場所が自分たちの通うミッションスクール“聖シオン学園”である事を高志郎達はまだ知らない。
 
 
翌日、高志郎はまた彩華と登校した。
一昨日の朝の焼き直しであるが、あの時とはあらゆる事情が変わっている。
「教室に行ったら真はいつもどおり登校してた、なんて事にならないだろうか」
「そうだったらいいんだけど」
そんな都合のいいことには多分ならない。口には出さないが高志郎も彩華もわかっていた。
「それより、結衣ちゃんは大丈夫かしら……?」
「大丈夫だろ、早苗がついていることだしな」
「そういう意味じゃないわよ。わかってないわね」
「じゃあどういう意味だよ?」
「そういうところがわかってないのよ鈍感」
昨夜と同じように罵倒され高志郎は眉間に皺を寄せた。
会話はそれきり途絶えた。
教室にはやはり真は居らず、それでもあと一人早苗が欠席しているくらいで、教室の時間はいつもどおりゆったりと流れた。
だが一昨昨日から色々な出来事があった高志郎と彩華にしてみれば、周囲が何も変わっていない状況は自分たちが取り残されてしまったようで苦痛だった。
そんなわけで昼休み、二人が示し合わせたように一緒に昼食を摂ることになったのは自然の成り行きだった。
二人は屋上に上がり、籐子の作ってくれたそれぞれの弁当を食べた。
「お前は前世の事をどう思う?」
「いきなり言うわね。そうね、なんだか妙に納得した感じよ」
高志郎も同じ気持ちだった。
証拠は無かったが、否定する材料もまた無い。それに“あの夢”のこともある。彩華が自分にすがってないている夢のことだ。
あの夢では彩華以外にも結衣に似た少女、そして見知らぬ少年の姿もあったような気がする。その少年こそが最後の守護者なのだろう。
「聖痕ってなんなのかしらね?」
高志郎の心を読んだかのようなタイミングで彩華が言った。

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